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「華原くん、どうかした?」
「……別に、どうもしないよ?」
試験勉強をしにオレの部屋にきた彼女は、勉強道具だけ広げてシュタインと遊んでいた。
それを黙って見ているのが気になったのか首を傾げる。
「どうもしないのにジッと見過ぎじゃない?」
シュタインを抱いたまま訝しげに見つめてくる。
「何しにきたのかなーって、思ってさ」
「う……シュタイン、ごめんね」
シュタインを撫でながら謝り、身体から離した。
「桜川は何しに来たの?」
「試験勉強です……」
申し訳なさそうにうなだれてペンを持った。
別に試験勉強をしなくてもオレも彼女も赤点をとるような頭じゃない。
言わば一緒にいるための口実。何せ彼女の兄が知ったら卒倒しそうな関係だ。いっそ卒倒させてやった方がいいと思うけど、彼女はまだ黙っていてほしいらしい。
「でも鷹士さん勘いいからなぁ」
「そうそう。お兄ちゃんの勘は当たるんだよね」
「何の話?」
「え?テストの話でしょ?」
変なとこで天然だと思う。
きっと今までも今もここにくる事に何の疑問も持った事ないんだろうな。
「ごめんね、華原くん。今から一生懸命試験勉強するから!」
気合いをいれてのガッツポーズ。離されていたはずのシュタインはいつの間にか彼女の膝に前足を乗せていた。
「シュタイン邪魔だろ?ちょっとあっちにやっとこうか」
立ち上がってシュタインを持ち上げる。じたばたと暴れるシュタイン。懐きように呆れる。
飼い主に似たのか?
「大丈夫だよ、シュタインいい子だし」
彼女が両手を広げるとシュタインはそこへ飛び込んだ。その様子を見て複雑な心境。
「……桜川の隣に行っていい?」
「え?私は大丈夫だけど華原くんが狭くない?」
大丈夫と言って隣に座る。すると彼女はくすくすと笑っていた。
「本当にシュタインが好きなんだね」
「シュタインは特別なんだ。一緒にいるのが自然っていうかさ、安心する」
彼女の膝の上でくつろぐシュタインを撫でてやる。何度となく撫でた毛並みは変わらずに心地良い。
「でも……」
言いかけて言葉を止めたオレを待っていてくれる。
「華原く……」
「っ!?」
彼女の肩に触れて押そうとした瞬間視界が慌ただしく変わった。
思わず閉じた目を開けてみるとシュタインの顔が目の前にあった。
オレたちの間にいたシュタインに押し倒されそうになった寸前で両手をついたため押し倒されはしなかった。
何も言えないでいるとシュタインがオレの身体から下ろされた。下ろしたのは彼女の両手だ。
「はは……ごめん」
「ううん」
何に対して謝ったのかわかっているのかいないのか。あのままシュタインの邪魔が入らなければオレは確実に彼女を……。
そうしたかったはずなのに、そうならなかった事に安心していた。
段々と俯いていた顔に温いものが触れた。
「なに……っ」
口に触れたのは何度も触れた彼女の唇。
少し顔を赤らめた彼女は笑ってもう一度キスをしてくれた。
「“でも……”のあと何て言おうとしたの?」
「安心……できない、って。予想外な事ばっかするし、もっと欲しくて」
君が望んでいない事をしてしまいそうで
「大丈夫。私も多分華原くんと同じ事を……」
「事を?」
小声になって消えた言葉。俯き加減の顔。上目遣いで何かを訴えられる。
「うん」
頷いて今度はオレからキスをしようと顔を近付ける。
「あ!で、でも」
寸でのところで両頬に添えられたままの手に止められた。
彼女の言葉を待ってみる。口をぱくぱくさせて視線を逸らされた。
「……今日は、何の準備もしてなくて」
思わず吹き出して笑ってしまった。この雰囲気で言う彼女が面白い。
笑い続けるオレにちょっと怒った風に額を押しつけられた。
「そんなに笑わなくても……」
「うん、じゃあ次は準備してきて?でも準備なんてなくてもオレは構わないけど」
そう言うと彼女は身体を離して駄目と首を横に振った。
「じゃあキス、させて?」
「確認しなくてもするのに」
「あれ以上のキスをしてもらうためにたくさんしないとな」
君が望むなら
オレも望む
オレの望む事は……
どうかな?
わからないなら
聞くよ
君の唇に
だから答えは
オレの唇に
H19.5.5
問いも答えも唇に
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