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「少し破けたぐらいだしいいよ」
「駄目だよ。女の子なんだから」

洋服屋の前まで来ると彼女は引き返そうとした。
その手を引き止めて洋服屋へと入る。

「これなんか可愛いよ!」
「うん、可愛いけど……」

掛けてある服を彼女の身体に合わせるようにする。
何でも似合うけど僕の好みだとやっぱりこれがいいかなと取ってみた。
でもニィナは受け取ろうとしなかった。

「本当に大丈夫だから」

少し破けたスカートの裾を摘んで笑って見せる。
彼女を困らせてしまっている。それでも僕は服を置こうとはしなかった。

「僕は困っている人を助けたい。でもこうして旅をしているのはそれだけじゃなくてニィナと一緒にいたいからなんだよ」

治療した人からお金を取る事はしない。お金に困って治療を受ける事ができない人もいるのだから。
それに僕がそうしたいだけだから。

「だから可愛い服も着てほしいんだ」
「ルキア……でも」
「簡単なバイトをしてお金は多少あるんだからさ。そりゃあ毎日宿屋に泊まる事はできないけど」
「なら洋服は買わずに宿屋に泊まろう?ルキアも疲れてるでしょ?」
「っ……」

疲れていないと言ったら嘘になる。治療もしているし、野宿では完全に体力を回復できない。
でも旅はしてきたわけだし、一人の時もあった。
心配なのは彼女に負担を掛けていないかだった。
なのに彼女は僕を心配してくれている。大丈夫と言っても本当に?と投げかけてくれる。
疑っているわけでも見透かしているわけでもなく、僕を思ってそう言ってくれているんだ。

「君の可愛い姿を見たら疲れなんて吹っ飛んじゃうよ」
「もう、ルキアっ」
「本当だよ」

冗談と思ったのか少し頬を膨らます彼女に微笑む。
すると少し顔を赤らめながらゆっくりと洋服を手にしてくれた。


「でも今回の服はちょっと野宿向きじゃないね」
「ふわふわしてて可愛いからね」

焚火を前に寄り添いながら会話をする。何度も感じている事だけど毎回彼女の身体の温かさに安心する。

「あまり着ない服だから少し違和感あるし」
「可愛いんだからもっと可愛い服を着なきゃ」
「ルキアっ」

本日二回目の頬を膨らますニィナを見ながら笑った。
君がいたから僕は僕でいられた。
君を思う僕と僕を思う君だからずっと一緒にいられると信じる事ができるんだ。



H21.8.19

君がいたから僕は僕でいられた
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