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避けられている。
ここ数日まともに会話をしていない。
部屋に行っても艦長室に行っても扉を開けようとしない。デッキに行けばパイロットは用がないなら入るなと兄貴と言われ、食堂に行けば艦長は部屋で食事を取ると言われる始末。

真正面から行っても避けられるだけだと通路で後ろから歩み寄る事にした。
これなら気付かないだろうと思っていたら何故か走り出した。

「おい、藍澄!」

ばたばたと走る藍澄を追い掛ける。すぐに追い掛ついて前へ回りこむ。

「はぁ…はぁ、な、何ですか、フェンネルさん」
「このぐらいで息切れするなら走るなよ」
「追い掛けられたら走りたくなるじゃないですか」
「避けられたら追い掛けたくなるって言えばいいのか?」
「……怒ってます?」

その質問には返答せずに間を詰める。後ずさりする藍澄を逃がさないように両手を壁につけて閉じ込めた。

「フェンネルさん……ここ、通路ですから」
「じゃあ部屋に来るか入れろ」
「それは駄目です」

藍澄は決して目は合わせないように逸らせていた。

「なら通路で話すしかねぇだろ」
「そうですけどもう少し離れても話しはできま……っ」

目を合わせないのが気にくわなくて息がかかるぐらいまで顔を近づけてやる。
あげくに離れろとまで言われたら余計離れるわけがない。

「フェ、フェンネルさんが通路でこういう事するからですよ」
「こういう事?」

そういえば避けられはずめる前に通路で似たような状況になったな。
あれはオレの部屋には行かないと言われたからだっけか。

「皆さんに誤解されますし」
「誤解?何も誤解なんてねぇだろ」
「いえ、あの……」

異様に言い澱む。
艦内の連中はオレ達の仲を知っているわけだし今更だろ。
なのにその今更を気にする必要は何だ、と思って思いあたった。

「オレとヤったのか聞かれたかそれ関係で何か言われたんだろ」
「ちっ!違い……ま、す」

両目をつむって顔を横に振る。どうやったらそんな一瞬で顔が赤くなるんだと言うのはやめておく。
否定はしていても反応が肯定していた。その反応を楽しむように更に顔を近づける。遠目から見ればキスしてるように見えるかもな。

「別にいいじゃねぇか。恋人なら当たり前だろ」
「艦長としてはやはりけじめを……それにそんな毎晩とか言われたら恥ずかしくて」
「毎晩?」

毎晩どころかそんな行為すらまだしていない。
言わせたい奴には言わせておけばいい。だが何をどう見たら毎晩ヤってるなんて言われるんだ。
ヤれるもんならヤってる。艦内だからってわけじゃないが何となく手を出していなかった。
両手を壁から離し、藍澄から身体を離す。
藍澄はちらりとこちらを見てまた逸らした。

「否定すりゃよかっただろ」

そんなに言われて嫌なら否定すればいい。そんな簡単な事もしないなんて。苛立ったが別の事で更に苛立った。
別にいいじゃねぇか。恋人なら言われても。
藍澄は答えない。というよりは言おうか迷っているように見えた。

「わかったよ。近づかなきゃいいんだろ」

苛立ちをぶつけるように吐き捨てるように言い、オレは歩き出した。
オレが意識を取り戻して回復して、エリュシオンへの配属が決定していていてどれだけ喜んだか。我ながら自分でも笑ってしまうぐらいに喜んだ。
それは艦長が藍澄だとわかったからだ。だから毎日部屋にも行ったし……。

「待って下さい!」

何かが引っ掛かるのと同時に後ろから腕を引っ張られた。
振り向くと藍澄が必死な顔をしてオレを見上げていた。

「毎日部屋に来て何してるのかという話題になって、何だか答えられなくなっちゃって……それに何もしないなんて男じゃないなんて事も上がって余計言えなくて」
「はっ、言いそうな奴がわかりそうな話だな」

とりあえず次顔を見かけた時は殴るか。おかげで数日無駄にしちまった。
オレの面子も守ろうとしたってわけか。本当馬鹿だと思う。最初からこいつはこういう奴だったな。

「だからってあからさまに避けることはねぇだろ」

身体を傾けて藍澄の方に向ける。藍澄はオレの腕を掴んだまま、顔を少し俯かせた。ひいていた顔の赤みが再び戻っていく。

「それは……そんな事言われたら意識してしまって」

今までしてなかったほうが驚きだ。
だから今まで何もなかったというのか?無意識に藍澄の気持ちをわかってたとでも?その時を待ってたとでも?
あほらしい。気まぐれだ。
そういう事にしておく。
藍澄の頬に触れようとすると身体をびくつかせながらも逃げはしなかった。
意識してるからの反応か。悪くない。
頬に触れると藍澄はゆっくりと顔を上げた。緊張してるような表情。キスなんて何度もしてるはずなのに。

「避けてすみません」
「仕方ねぇから部屋で聞いてやるよ」

唇を重ねる事もなく頬から手を離し、藍澄の腕を引いて歩き出す。
オレが掴んでいるわけじゃない。部屋につくまで藍澄はオレから手を離す事はなかった。



H22.4.13

部屋につくまで手を離す事はなかった
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