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帰宅すると店に兄さんが立っていたのが見えそのまま自宅に入った。
廊下にごみが落ちていて拾うと封筒の上部を破いたものだとわかる。そろそろ兄さんが受けたオーディションの結果通知が届くはず。慌てて破いたのか落とされた封筒の上部。
階段をのぼって兄さんがいないとわかりながら部屋を開けた。机の上に紙が見え近づくとすぐに結果が目に入った。

「一織……」

振り返ると店から戻ってきた兄さんが佇んでいた。無断で部屋に入ったことには言及せず紙を見たのがわかったのか苦笑した。

「次また頑張るよ」

兄さんが部屋に入り紙を折り畳みゴミ箱へ捨てた。

「……頑張ったじゃないですか」
「一織?」
「頑張ったじゃないですか!いつも兄さんは全力です!だからそんな」
「わかってるなら言うな!」

言葉は最後まで言えずに遮られる。兄さんはあまり声を荒げることはない。だからその声に驚き何も言葉は出てこなくなってしまい部屋を出ていくしかなかった。
そんな無理をして笑わなくていい。次第に悔しさや悲しいのを見せたくなっていく兄さんが壊れてしまいそうで、でもそれを言うことさえ許されないような気がしてその日は目も合わせられなかった。


必要最低限の言葉は交わせるようになって数日。部屋にノック音がし答えると兄さんの声がした。

「少しいいか?」
「どうぞ」

いつもならすぐに開くのに少しの間のあと開いた。もしかしたらいつも通りでじっと扉を見つめていたから長く感じてしまったのかもしれない。

「ベッドにでも座ってください」
促すと兄さんはベッドに座った。俯いて少し考えるようにしてから顔を上げる。
「この間はごめんな。一織がオレのために言ってくれたのに」
「いえ、私こそ言うべきではありませんでした」
「言いかけただろ?」
「え?」

いつも仲直りのきっかけを作ってくれるのは兄さんだ。だからこれでいつも通り兄さんのそばにいられると安心していたらその続きがあり聞き返してしまう。

「最後まで弟の言葉は聞かないとな」
「数日前のことですし」
「賞味期限でもあるのか?」
「……違います」

言うまで聞かれそうだ。けれど言っていいものだろうか。また放っておけと、自分のことに気をかけろと言われてしまうだろうか。
立ち上がり兄さんに近づく。見上げる兄さんを見つめ頭を抱えるように抱き締めた。これで顔は見えないし見られることもない。

「……無理しないで下さい。もっと悔しがって悲しんでいいんですよ。兄さんは強いから立ち上がれるのを知ってますから」

沈黙を苦しく思っていると兄さんの笑い声が聞こえた。背中をぽんぽんと叩かれる。

「体強ばりすぎ。ありがとな。やっぱりきつかったから力抜けた」

体を離し見つめると無理をしている様子はなかった。

「もっとうまく慰められたらよかったんですが」
「なにそれ?慰められたらって……まあそうか。それだけオレにとって大事なことで、落ち込むのをわかってくれてるんだもんな」

自分がもし女性なら、男性でも可愛ければ多少癒されたのだろうか。女性で血の繋がりがなければ別の形で慰められただろうか。

「なんだ?なんだ?」

もう一度抱き締める。そのままベッドに倒れこみ兄さんがまた笑う。

「甘えられてるみたいだな」

甘えてほしいんですよとは言わない。兄さんの夢を叶えたい、その姿を見たい。だからこんなところで折れてほしくない。けれど自分にはうまく兄さんを慰められないのが不甲斐なかった。

「ありがとな、一織」

背に腕を回され何もできてはいないのにと思いながら兄さんの頭を抱き締めた。


デビューすることを夢見てきていたけれど通過点だとわかっていた。想像以上に厳しく自分の役割にも迷い、悩んだ。それでも試行錯誤しながら過ごしていると弟の様子がおかしいことに気がついた。

「一織、ちょっといいか?」
「どうぞ」

実家でも幾度となくしたやりとり。思い返すとオレが一織の部屋を訪ねることが多い気がする。
ドアを開くと一織は机に向かっていていつも通りベッドに座るよう言われ座る。

「一織、元気か?」
「何ですか突然。体調なら大丈夫ですよ」

背を向けたまま答えられる。落ち込む何かがあったのではないか。しかしそれを聞いていいものか。

「何か気になることとか話したいこととかないか?」

一織の性格上悩みを聞けばないと答える。だから悩みではなく話題はあるかと促す。

「……役立たずというのは役に立たないということですよね」
「まあそうだな」

脈絡ない話題が出てきたがまさか言われたわけではないだろう。一織が役立たずなら人類の何割が役立たずではないと言えるのか。

「たまたまいなくていたらよかったのにとかそういう意味かもしれないだろ?」
「そうでしょうか」

顔だけ振り向いた一織の眉は下がっていて言われたのかと察する。オレみたいにファンの一部に言われたのを気にしてるのかもしれない。
立ち上がり頭を包むように抱き締めた。

「兄さん?」
「前にやってくれただろ?一織はもっとうまく慰められたらなんて言ってたけど十分慰められた」

全部は言えなくても溢してもいいんだ無理しなくてもいいと楽になれた。一織の落ち込んでいる状況は詳しくはわからなくても無理しなくていいのが伝わればと思いながら頭を撫でる。

「甘えたいときは甘えておけ〜」

少し髪をくしゃくしゃにしてやる。頭を離すと一織がオレを見上げてくる。
同じように頭を一織に抱き締められベッドに倒れこんだ時不思議な衝動が芽生えた。このままこの温もりに縋れたらいい。ずっとそばでオレを支えてくれるのはなぜか。もっと自分のために使ってくれよ。でないとオレは一織を離してやれない。

「……っ」

引き寄せられるように唇を重ねて啄んだ。驚いたのか体は強ばりながら逃げる気配はない。

「にい、さっ」
「慰めるってこういうことしようとした?」

何度も何度も重ねて慣れてきたのか体から力が抜けてきたと思えば音を立てたらまた強ばる。

「……はい」

離れた隙に一織が肯定し停止した。

『もっとうまく慰められたらよかったんですが』

あの時の言葉が過る。つまりあの時一織は考えながらできなかった?

「兄さん、どうし、んっ」

停止したオレを不思議に思い首を傾げた一織の唇を塞いだ。片手を首筋から胸、腹と這わせていきスラックスまでいくと手探りでベルトを外していく。

「兄さん、ちょ……待って、くださ」

かちゃかちゃと音を立てながら外しチャックを下げる。制止する声を遮りながら下着の中に手を入れるとさすがに手が胸にあてられた。片手で頭を支え離れないようにすれば弱い力で胸にあてられた手は無力だった。
一織のものに触れ緩く指で刺激すると硬くなっていく。段々と勃ち先端から汁が出てきて音がすると胸にあてられた手に力が入る。構わずに上下に擦ると息は熱くなり荒さを増す。離しては塞ぎを繰り返し離すと甘い声が漏れる。恥ずかしいのか一織は目を閉じていてキスをしながらそんな一織を見つめ続けた。

「はっ、あ……だ……このまま、じゃ」

限界が近いのか胸にあてられた手は押さずにシャツを掴んでいた。熱く脈打つ一織のものを追い立てるようにしごき、唇を離し耳を舐めた。

「あ、あっ……くっ」

シャツを強く掴まれ体をびくつかせながら先端から吐き出した。

「はっ、はっ……二人とも、服が汚れたじゃ、ないですか」
「やっぱりそっちか」

限界がくる前に気にしていたのは服が汚れることだろう。下手をすれば他も汚れてしまう。
体を離し一織のものから手を離すと一織がぎょっとした様子で見た。

「ウェットティッシュがそこのテーブルにあるので取って下さい」

まだ息を荒げながらも指示をする一織に笑いながら取り、一織に渡すと二枚渡される。

「きちんと拭って下さい」
「……嫌だったか?」

拭きながら聞くと一織は間をあけずに答えた。

「嫌なわけがありません」


部屋をあとにして次は自分のを処理しなければと思う。
この安心感はいいものばかりではないことはわかっている。それでも離してやれないということからは目を逸らしてはいけない。


H28.7.5


離してやれないということからは目を逸らしてはいけない
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