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鏡の中の自分は眉間に皺を寄せていた。眉間に指をあて目を閉じながら一体何をしているのだろうと思う。
外で性行為をするのは初めてはなかった。それでも至るまでの経緯はあったはずなのにあの時は突然だった。

「この格好だったからでしょうか……」

鏡に手を伸ばすと鏡の自分と手が重なる。あの時の女装をしている自分。カツラはつけていないものの見慣れない姿に違和感がある。
幾度も性行為はしているもののやはり兄さんは女性としたいのではないか。そんな考えが浮かびながら聞けずにあの時と同じ格好をして同じような状況を作ればわかるかもしれないと汚れたからと買い取った女性もののワンピースをまた着用した。
部屋に行くまでに誰かに会わないだろうかと考えていたら時間は過ぎていきもう兄さんも寝ているだろう。日を改めようとファスナーを下ろそうとしたところで扉を叩く音がした。

「一織、まだ起き、て……」

言いながら扉を開けられ振り返ると私の姿を見て制止した兄さんと目があった。
素早く兄さんは部屋に入り扉を閉める。

「一織……誰にも言わないから安心しろ」
「趣味になったわけではありません!」

まるで女装が癖になり趣味になったような言い方をされて否定する。兄さんも半分は冗談だろう。もう半分はなぜ女装をしているかわからないという疑問が含まれている。行く必要はなく兄さんから部屋を訪れたならもう後戻りはできない。仕切り直しはできないのだから。

「兄さん……しませんか?」
「え?」

何をとは言えなかった。それでも兄さんにはわかったはずでこんなふうに誘うのは初めてで戸惑われているのがわかった。

「兄さんは何もしなくていいですから」

兄さんに近づき膝をつく。寝巻きのジャージのズボンを下着と一緒におろす。

「一織っ」

さすがに兄さんが止めようと手で制されようとしても構わずに萎えたままの性器を擦り出す。

「一織何考えて」
「ただ兄さんとしたいだけですよ」

兄さんがあの時性行為をした考えが知りたかったのに今は反対だった。私がこうしている考えが兄さんにはわからない。
硬くなってきた性器に口を寄せ先端をくわえる。慣れない匂いと味に顔をしかめながら目を閉じ奥深くくわえ緩く抜く。必死で兄さんの様子はわからない。けれど口の中の性器が硬くなることで気持ちよくさせられているのだとわかる。

「一織、でる、から」

肩を軽く掴まれ離れるよう促されても離れずに動きを止めない。やがて肩を掴まれ限界がきたのがわかり目を開け見上げると兄さんと目があった。普段はあまり見ることができない兄さんの快楽に歪む顔。

「い、おりっ」

その瞬間口の中に射精され溢れ出す前に飲み込もうと試みながらすぐにできずに何とか飲み込むも口端から溢してしまった。

「はっ……はぁ」

口内に残るねばつきは気にせずに口を開いて息をした。兄さんがテーブルに置かれていたティッシュで口元を拭いペットボトルを差し出してくれる。でも受け取らずに首を振りそうになって受け取った。キスをするなら飲んでおいたほうがいい。兄さんはそんなことは考えずに渡してくれたのはわかっている。けれどできれば口の中に残していたかった。
飲んでから兄さんを見上げる。もうズボンも下着も上げられていて私がどうするのか様子を窺っているようだった。いつもとは様子が違うように見えるのだろう。

「一織……」
「待ってて下さい」

手を伸ばし最後までしないでも私の方の処理をしてくれようとしたのだろう。制して下着を脱ぎ、座り込み膝を立ててスカートを捲り上げようとする。

「今回はパンツはいつものなんだな」
「さすがに仕事以外で何度も穿きません」

意を決し捲り上げると勃起した性器が露になる。兄さんが見ているのがわかり俯く。するには後ろを慣らさなければいけない。そのために自分の性器を扱き出し潤滑剤にするために液を指に絡める。

「あ……ん、は」

恥ずかしくて仕方なかった。見られながら自慰をすることなんてない。

「にいさ……」

目の前の兄さんに見られていることと普段自慰をする際に兄さんにされていることを想像しているのが不自然に重なり混乱しながら興奮している自分に恥ずかしくなる。片手は性器に、もう片手で後ろを慣らそうとする。自分で入れるのは初めてで恐怖を抱きながら人差し指をゆっくり挿入していく。

「あっ」

異物の気持ち悪さはあるのに幾度と挿入された感覚があるからか体は反応する。兄さんにされてる時が過って自分の指を締め付けたのがわかり更に恥ずかしくなった。

「んぅ」

いつの間にか兄さんが目の前に膝立ちしていて指を数本口内に突っ込んできた。上を向かざるを得ず兄さんを見上げると兄さんは笑みを浮かべた。その優しい表情に反して口内の指は舌を撫で愛撫するように掻き乱す。

「ん、う……」

中指を更に入れ広げようとする。

「あっ」

口内から指を抜かれると兄さんの指が一本後ろに挿入された。性器を扱く手は止まり後ろに集中していたためまだ達してはいない。けれど兄さんの指が入ったことにより快楽が押し寄せて達してしまいそうになる。

「だめ、だめです、兄さんっ」

必死に兄さんの指を抜くように言っても聞いてはくれず後ろを攻め立てる。自分の指も動かし、抜いて兄さんの指も抜いた。

「まだイってないだろ?」
「いいんです」

兄さんの両肩を掴みそのまま押し倒し跨がった。荒くなる息を整えながら兄さんのズボンと下着をおろす。先程のように萎えてはおらず再び起っている性器を軽く扱く。

「一織辛いだろ。オレが」
「私が、やりたいんです」

兄さんの性器を後ろに宛てようと探る。うまく先端を誘導できずにいると兄さんの手が添えられた。

「くっ」

腰をゆっくりと落としていく。圧迫感はあるも全て入っていないのもわかり一度息を吸い込む。

「ひゃっ」

その隙をついて腰を掴まれ落とされ変な声が出てしまった。スカートの裾を持ち上げ噛む。緩やかに律動を始めるとくぐもった声が漏れた。これなら変な声も漏れることはない。

「いい眺めだな」

笑って言われ裾を持ち上げたことにより性器が兄さんに見えていることがわかる。声とどちらを取るか迷いそのまま律動を繰り返した。

「っ……一織、急にどうしたんだよ」

荒くなる息を抑えながら兄さんが聞いてくる。兄さんこそあの時は急にどうしたのか知りたい。

「ふ……んん」

黙ったまま腰を動かしていると兄さんの手が性器に触れた。先程のもあり達してしまいそうになる。堪えたかった。でも兄さんのものを挿入し、兄さんに触れられたら堪えられるわけがなかった。

「ん、んっ、んん」

裾をきつく噛み声を抑えながら達した。噛んだ箇所が唾液で湿っているのがわかる。息苦しさを感じていると下から裾を引っ張られ落ちた。

「何かあったら言えよ?」

息を整えながら兄さんの言葉を聞く。達したばかりでぼんやりしながらまだ燻っていて腰が緩く動く。もっともっとと無意識に欲するのをどこか傍観しているような気分だった。
言っていいのか。兄さんへの思いを。兄さんが困るだけではないのか。言えない。言いたい。けれど言えない。

「兄さん、はっ……この格好のほうがいいですか?」
「は?」

律動を再開させて聞く。

「このまえ、この格好で、したがった……じゃないですかっ」
「ちがっ」

言いかけて兄さんに腰を掴み動かされる。自分では闇雲に動かすだけだったのが兄さんに動かされ更に突き上げられると自分の気持ちのいい箇所にあたり上半身は突っ伏した。

「色んな一織が知りたかったからって言ったろ?」
「ん……でも、あっ」
「こんな格好してこんな顔する一織なんてオレしか知れないから」

ずるいと思いながら口にはできず喘ぎが漏れそうになり堪える。

「今だから知れることだろ」

今のこの関係だから。昔なら知ることはできない。兄さんのこんな顔も行為も。全てはわからなくてもあの時性行為をした考えは少しだけでもわかった気がして安堵する。

「一織っ、今日つけてないから」
「このまま……はっ、このままくださ……ん」

ゴムをつけていないことは私からそうしたのだからわかっていた。私も限界が近く、兄さんも達しそうで声が漏れないよう唇を押し付ける。漏れないためだけに唇を重ねているわけではなかった。

「ん、んん」

中に出してほしいという意味は伝わっていて驚く兄さんを見つめる。すぐに限界がきて達すると熱いものが放たれる。目を閉じると体に染み込んでいくようで心地よかった。

「んっ」

舌を絡めれ吸われ痺れるような感覚になる。わざと音を立てられているように思え恥ずかしくもなるも離れはしない。しばらくそうしていれば再びお互いに勃起し兄さんの三回目の射精を受け止めた。


「一織どろどろだな」
「そうですね。汗だくです」

そういう意味で言っているのではないことはわかっていた。

「お風呂場まで誰かと鉢合わせないか見てやるから」

こんな時間に起きてる人はいないだろうけれど念には念を入れて。

「っ……」
「大丈夫か?」

立ち上がり気づいたのか兄さんに顔を覗きこまれた。

「大丈夫です」

本当か?と念を押してくるような表情に無言の肯定で返すと兄さんは部屋の外に出るために背を向けた。
兄さんの精液が残る体内。兄さんが望むなら手助けしたいのにいざ抱くのが他の人の方がいいのかもしれないと思うと不安になり、今の状況に安心する。欲しがる自分が浅ましい。

「行くか」
「はい」

笑顔を向けてくれる兄さんにいつものように返す。残るものに侵食されていくように思考が麻痺する。このまま腕を掴んで引き留めて欲しがればいいのではないのだろうか。けれどできない。
兄さんのあとをついていくように部屋を出た。


H28.9.4


Corrode
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