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「天にぃ、天にぃ」

呼ばれながら軽く揺すられ目が覚める。転た寝をしていたようで机に伏していた。

「天にぃ?」

顔を上げると向かいの陸が首を傾げる。寝起きでまだぼんやりする頭で陸の部屋に来ていたのだと思い出すまで時間がかかってしまった。

「天にぃ」

伏した体を起こし寝てしまったことを謝ろうとすると先に陸が口を開いた。

「天にぃ、今幸せ?」

陸の言葉と責めるような瞳に制止する。立ち上がり近づいてくる陸を見上げることしかできない。

「オレ達家族を捨ててステージに立って、歌って、踊って、笑って」

横に膝をつき屈む陸を見つめる。

「新しい居場所は幸せなの?」
「陸……」

責められて然るべきだ。何も言わずに置いていったボクを憎んでも仕方ない。近くにいたから、好きだからこそ憎く思うもの。

「どうして答えてくれないの?」

恵まれているとは思う。けれどボクには幸せになる資格はない。だから答えられない。幸せではないとも言えない。今の状況を否定するようで言えなかった。
陸の両手が伸ばされ顔を包まれ上向かせられる。

「家族を捨てて幸せになった天にぃのことも好きだよ」

責めるような瞳は笑みを浮かべても変わらない。

「天にぃは天にぃだから。幸せな天にぃはオレがもらってもいいよね?」

顔が近づきどうなるかわかりながら目は逸らせないまま閉じもしなかった。

「っ……」

押し付けられた唇が一度離れては触れる。舌で割り込むように口内に入り込んでくる。

「りく……」

こんなキスをしていたら苦しくなってしまうのではないかと心配になる。

「天にぃ心配してる」
「っ!?」

声が頭上からして驚く。声の主である陸は離れずにキスをしているのにどうしてと視線を向けると陸と目があった。キスをしている陸がボクを押し倒す。唇が離れ二人の陸が見下ろしていた。

「天にぃちょうだい?」

何をと聞く前にトレーナーの中に手を入れられ意味がわかる。

「大丈夫だよ、天にぃ。心配する必要はないんだよ」

後から現れた陸が屈み込み笑う。よく知る陸の笑顔に安心しながら体をまさぐられていく。

「オレは複雑だったけどこうして天にぃと会えるようになって嬉しい」

捲り上げられたトレーナーを脱がせようと掴まれ両手を上げた。

「天にぃは嬉しくない?」

トレーナーを抜き取られ乱れた髪を整えながら陸が不安そうに聞いてくる。ベルトが外されズボンが脱がされるのを止めずにそのままにした。

「嬉しくないわけがない」
「本当に?」

もう一人の陸が覆い被さり責めるように問いかけてくる。
これは夢だ。ボクを責める陸は離れてから何度も夢に見ていたから。怒っても陸はボクをこんなふうには責めない。でも責めてほしい気持ちもあり身勝手さの現れだった。後悔はしていない。何度だって同じ選択をする。だから責めてほしい。陸にはその資格がある。

「本当だよ。もう会えないと思っていたから嬉しいに決まってる」
「オレを置いて行ったのは天にぃなのに」

頬に触れる。陸は泣いていない。でもどちらの陸も泣きそうで抱き締めたかった。

「うん。だから陸にあげるよ。もらってよ。陸がいないと……」

これ以上は口にしてはいけない。たとえ夢でも。

「嬉しい、天にぃ」

覆い被さっていた陸が笑う。体を離しうつ伏せの体勢になり膝をつく。陸がボクを見つめていてもう一人の陸が下着を脱がせていく。

「陸」

手を伸ばすと重ねられ指を絡めるように握る。後ろから性器を擦られ指が後ろへ挿入され痛む。

「痛い?」
「大丈、夫……陸にされるなら何だって嬉しいよ」

陸が元気でいてくれるならボクは関われなくてもいいと思っていた。でもどこかでそれを寂しくも思っていて夢でもこの状況に喜びを感じている。
息は荒くなっていき足も震える。起こされ後ろ向きのまま陸の性器が宛がわれゆっくりと入り込んでくる。

「く……ぁ」

息は浅くなり苦しくなるのを手を握ったままの陸が見つめる。

「天にぃ」

どちらの陸が呼んだのかはわからない。でも陸が呼んだのは確かでそれだけでよかった。

「あっ……さわっちゃ……」

手を握る陸がもう片方の手でボクの性器に触れた。恐る恐る先端を撫で、握り上下に緩やかに動かし出す。

「天にぃこうしたら気持ちいい?」
「はっ……陸」

陸が深くに入り込んでいくのがわかる。根元まで入ると動かされ痛みが麻痺したかのようにわからなくなっていく。

「陸も……」

早くはない動きに段々焦れながら陸のズボンのベルトを外す。後ろからされながら、性器も弄られ手がうまく動かせず早く脱がせたいのになかなか脱がせられない。

「陸……陸……」

呼ぶと後ろから首元をなめられた。やっと陸の下着を降ろし既に硬くなっている性器に触れる。

「陸、もっとこっちにきて」

陸は言われるがまま近寄り陸の性器と自分の性器を握る。ボクの先走りで陸の性器が汚れ擦ると陸が声を抑える。

「陸……」

唇を寄せ重ねた。啄むように貪るようにキスをする。どちらのかわからない唾液が垂れても構わずに。

「天に……ん、ん」

苦しくないだろうかと過りながらこれは夢だから大丈夫なのだと思う。陸の手も性器を握り擦り合わせる。

「天にぃ」

後ろの陸に耳を噛まれる。何度も何度も名前を呼ばれる。

「は、あ、あっ……陸、陸」

達しそうで唇を合わせながら陸を呼んだ。

「もうでちゃう」

前の陸がそう言うと達し熱いものが飛び散り中に注がれた。

「大好きだよ、天にぃ」

二人の陸の声を聞きながら二人の熱を感じ目を閉じた。


「そんなに慌てて食べない」

カフェで陸と待ち合わせをしパンケーキを食べていた。慌てて食べるから陸の口元にはクリームがついている。

「……早く食べた方がいいかと思って」

誰かに見られればまた双子かもしれないなんていう噂が流れるからだろう。俯きながら小さく切り食べる陸を見つめる。

「七瀬さん」
「はい……?」

呼ぶと陸はこちらを向き、口元のクリームを指で拭った。

「あ、ありがとうござ、っ!?」

ついていたことに気づいていなかったようでお礼を言われている途中で指をなめた。外でそんなことをするとは思わなかったのだろう。

「て、九条さんっ」
「ちょうど行きたいカフェが同じでそれがこの間一緒にした仕事のインタビューでわかったからじゃあ一緒に行きましょうってなったんですよ?」

気にしなさすぎも駄目だけどもう少し自然にしても平気だという意味をこめて言う。ボク達だけが会っているわけじゃない。他のメンバー同士も会っている。だから不自然なことではない。

「七瀬さんとくると賑やかですね」
「うるさいってことですか?」

少しむっとしたのがわかり笑う。子供っぽいと言われたように感じたのだろう。

「楽しくて美味しいってこと」

陸は驚いた表情をしたあとに泣きそうになるのを堪えて笑った。
これを何と言うのか。言う資格はないけれど陸がいてくれるとこんなにも……。



H28.9.6

幸せの在処
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