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寝ている間に全てが終わってたなんて間抜けな話だが実際終わっていた。
すっかりいつも通りな学園の廊下を歩き、図書室を目指す。
扉を開くとすぐに貸し出し口に座る少女とその目の前に立つ少女がいた。
「天見くん」
座っていた少女、栞が俺に気付く。すると立っていた少女、水奈瀬もこちらに顔を向けた。
「水奈瀬も来てたのか」
「うん、栞ちゃんのおすすめの本を借りに来たの」
そう言って本を掲げる。どうやら絵本のようだった。あんなのうちの図書室にあったか?
「天見くん」
「何だ?」
何だか栞からは俺の名前しか聞いてない気がするが元々口数も多くないから仕方ないだろう。
「今日天見くんのうちに行きたいの」
「え?」
「し、栞ちゃん!?」
あまりにも真顔で言われたもんだから反応が小さくなってしまった。かわりに水奈瀬が大きな反応をして慌てて絵本で口を塞ぐ。
放課後でもう図書室を閉める時間だからそんなに人は残ってなくてもやはり図書室では静かにしなくてはいけないだろう。
「じゃなくて……」
「し、栞ちゃんが夕ご飯を一緒にしたいんだってっ。料理をふるまいたいんだって」
水奈瀬は俺にというよりは図書室内にまだ残っている生徒に言っているようだった。
やましいことはないというフォローなんだろうけど結局栞が俺の家に来る以上あまり大差ない気がする。
「だから、あのっ……あぅ……うゆ」
フォローしようとして混乱したのか謎の言語を発してまた絵本で口を塞いだ。
「天見くん、行ってもいい?」
栞は変わらずでいつもの調子で聞いてくる。
ここで頷くのを聞けば一人混乱して何故か涙目になっている水奈瀬も落ち着くだろう。
そう思って頷こうとすると後ろから声が聞こえた。
「ゆか、ここにいたのか。ゆか?」
誰か確認する前に軽く身体にぶつかりながら素通りする人影。
「どうした、ゆか」
同じクラスの皐月駆だった。もうひとつの事件の当時者であり栞の協力者だ。栞は友人だと嬉しそうに言っていた。とても戦闘に向いてるとは言えないがそれは俺もそうだろう。皐月は俺の能力や現代魔術の事も知らないだろうし。
「駆くん……探させちゃってごめんね」
「それぐらいいいよ。それよりどうしたんだ?」
皐月が来た事により多少なりとも落ち着きを取り戻した水奈瀬だが、水奈瀬の様子から皐月が心配していた。
「うん、うまく伝えられなくて」
「伝える?」
皐月は目の前にいる栞を見てからこちらにも目を向けて明らかに訝しげに見てきた。
誤解されてる、と思う。
「皐月くん、私が水奈瀬さんに相談したの。それで助けてくれたんだけどそれがうまくいかなかったの」
「そう、なんだ」
栞が淡々と説明して水奈瀬に確認すると水奈瀬は頷いた。
「その、悪かった」
「いや、俺も汲み取らなかったのが悪いし」
皐月とまともに会話をするのははじめてな気がする。
いまいち現状を把握できていないがとりあえずクラスメイトには誤解されずにすんだようだった。
「ありがとう、水奈瀬さん」
「うん、また何かあったら言ってね。私も本ありがとう」
栞が柔らかく笑ってお礼を言うと水奈瀬も同じようにお礼を言った。水奈瀬の様子を見て栞が更に嬉しそうな表情をする。その表情を向けられたわけじゃないのに照れそうで視線を逸らした。
「じゃあ、私達行くね。天見くん、ごめんね」
「謝る事ないよ。ありがとう」
水奈瀬はやっぱり嬉しそうにして頷くと皐月と共に図書室をあとにした。
「それで来るのか?」
水奈瀬がいた場所に佇み小声で話し掛ける。
栞は閉じる準備をして俯いている。
「行きたい、だめ?」
上目づかいだけならまだしもいつもの淡々とした口調ではなく甘えるように言われてしまうと何も言えない。
「天見くん、もう少しこっちに顔寄せて」
栞も声を潜めるから何かまだあるのかと耳を寄せる。
これ以上何があるのかと思っていると両頬をあたたかいものに挟まれ顔の向きを変えられた。
「っ……」
触れるだけのキス。
長いの短いのかすらわからずに唇が離れた。
「したい時にすればいいって教えてもらった」
至近距離で頬を赤らめながらの発言に照れる。
水奈瀬に相談って何を相談したんだ。
「もう誰もいないから閉める」
「え?」
栞が立ち上がり前かがみのまま少し見上げる。
確かさっきまで何人かいたはずなのに誰もいない?いつ出てったかなんて考えたくない。
「天見く……」
栞と目が合うと唇を寄せて今度は俺からキスをした。
もう誰もいないなら気にする必要もない。
それにしたい時にすればいいって栞も言ってたし、仕掛けられる前に仕掛けたい。
H23.1.12
仕掛けられる前に仕掛けたい
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