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自分の誕生日だというのに憂鬱だった。
一人きりの誕生日。一人きりのノエル。
少佐の執務室に一人佇む私。

「邪魔なら外に出しておいてほしかったな……そんな手間かけるならこうするよね」

遅刻してしまい急いで来たら部屋は明かりがついておらず、部屋の主もいなかった。
ただあるのは私が注文したものの残骸。氷づけにされて砕かれた木と飾りは他の人が見たらもう何だかわからないだろう。

「……帰りたい」

涙が零れそうになり堪えたのに口からは弱音が零れた。
家には帰れない。私を育ててくれた家のために私はここにいるのだから。
過去に戻りたい。ツバキやマコトがいたあの過去へ。
膝をついて砕かれた氷のかけらを掬う。冷たさが痛かった。


痛かった。
冷たさが熱を持ち切り裂いた肌が痛む。
よろける足を何とか倒れこまないようにする。先にはユキアネサを握るキサラギ少佐。
その目から感じる感情に飲み込まれそうで息苦しくなる。

「やめて…くださ、い。キサラギしょうさ……」
「黙れ!この屑が!貴様さえいなければっ」

切れた二の腕を押さえる。血の感触を手のひらに感じた瞬間目眩でよろけた。
バランスを崩して取れかけていた帽子が床に落ちて帽子の中にまとめていた髪が下ろされる。

「っ……」

それに反応したかのように少佐の目が見開かれた。
まただ。また。憎悪と恐怖が私に向けられる。
私はどんな表情をしているのだろう。あのクリスマスの日のように泣くのを堪えられているだろうか。
どうしたらその憎悪と恐怖はなくなるのだろう。私には何もできない。

「しょう、さ……戻りましょう」
「黙れ!ノエル・ヴァーミリオンっ!」

ただそう言う事しかできなくて私は崩れ倒れそうになった。
床に倒れる衝撃はなくて冷たさに包まれる。痛みもなく、砕かれる。
あの木や飾りのように。本来の形をとる事のできなかったツリーを思い浮かべる。私にもあるのだろうか。本来の形が。


「……ん」

目を覚ますと机に突っ伏していると目の前にあるぼんやりとした光に目を向ける。

「いけない!」

光を発しているパソコン画面の時計を見て慌てた。
通販サイトを見ていたら眠ってしまったようだった。

「急がないとクリスマス近くなると荷物が予定通り届かない事もあるし」

マウスをクリックしながらツリーや飾りを見ていく。
机には少佐に許可を貰えた紙が置かれていてそれを見て眠気を飛ばした。
執務室のツリーの搬入許可。何だか受け答えがいい加減だった気がするけどこうして許可をえた証拠もあるし大丈夫だよね。
何かしたかった。それが無意味であっても。

「あ、これとか……」

だいたいキサラギ少佐ぐらいの高さのツリー。
それが執務室にあるのを想像すると楽しかった。士官学校を出て一人になってはじめての誕生日。祝ってもらおうなんて思わない。
何かしたいだけ。
そう思って私は目についた飾りを選んでクリックしていった。
一人ではないノエルを思い浮かべながら。



H22.12.25

一人ではないノエルを思い浮かべながら
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