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「またか」
「はい……」

ヴァーミリオン少尉の頭からは猫の耳が生えていた。心なしか力が入っていないかのようにしょんぼりしているように見える。

「この前みたいにすればいいだろう」
「朝起きたらなくなってたのでどうしたらなくなるのかわからないんです」
「つまり今日はそのままという事か。雑務に支障がなければいいだろう」
「あの、今日は自宅待機とかは……」
「ないな」

別に一日ぐらい少尉がいなくても雑務に支障はないだろう。
むしろ耳を気にして終始落ち着かない可能性を考えると自宅待機を命じた方がいいだろう。
だがそんな考えは最初からないように少尉が言い終える前に遮った。

「……わかりました」

それ以上は何も言えずに返事をすると髪を軽く束ねて帽子をかぶった。


書類を出して執務室へ戻ってきた。いつもは少尉に行かせるが今日はいつも以上に役に立たない。
思っていたよりも時間がかかってしまった。

「だが寝ていろとは言っていない」

執務室へ入るとすぐに奥の机が目に入り、そこで少尉がうつ伏せになって寝てるのがわかった。

「全く……」

近づくと帽子を取っているとわかりすぐに猫耳に視線がいった。

「しょうさ……いたいです……」

寝言まで言い出して呆れてしまう。
一瞬、以前のように噛んでやろうかと思ったがやめた。

「ん……」

片方の耳にそっと触れる。奇妙な感覚。
そのまま手のひらで両耳を軽く潰して撫でる。

「ふふっ……くすぐったい……」
「嫌なのか?」
「嫌、じゃない……です」

寝言だというのにしっかりと会話ができている。
起きているんじゃないかと思ったが起きていたらまた違う反応をするだろう。

「そういえば尻尾はないのか。中途半端だな」
「……ん」

撫でる耳がぴくっと動くと少尉の瞼がゆっくりと上がった。
そのまま緩やかな動作でこちらに顔を向けてくると視線があった。

「しょ、少佐!?」

やっと状況を把握したのか身体を起こす。
手から頭が離れていき行き場をなくした手を下ろした。

「すみません!」
「本当に役に立たないな」
「すみません……」

二度目は泣きそうな顔をした。
そのまま立ち上がろうとしたので肩を掴んでそのまま椅子に座らせる。

「少佐?」
「そのままでいろ」
「は、はい」

見上げてくる少尉は訳がわからない様子で椅子に座り続ける。
何も言わずに先ほど下ろした手を上げると耳が微かに震え出した。まるで怯えているようだ。
そのまま先ほどのように触れて撫でる。

「あの……」
「黙っていないと前のように噛む」

視線を下げて少尉は黙り込んだ。
ふさふさした感触を手のひらに感じる。

「猫、お好きなんですか?」
「特に好きだと感じた事はないな」

しばらく撫でていると少尉が上目遣い気味で聞いてくる。
特に猫耳にこだわりがあるわけではない。ただこうして撫でていると奇妙な感覚になる。
答えなどあるわけがなく奇妙な感覚は不快ではないため撫で続けた。

「もしかしたら好きなのかもしれませんよ?」

なぜか嬉しそうに言う少尉に否定も肯定もしない。

「……少佐が猫好きなんて可愛い」

小声で言ったつもりだろうがこの距離では聞こえるに決まっている。
指摘はせずに顔を近づけると予期せぬ接近に少尉は僅かに顔を引いた。

「黙っていなければ噛むとさっき言ったのを聞いたな?」
「え、あ、すみません」

どうなるか推測できたのか身体を引かせるが逃がさないように両手で肩を掴んだ。

「役に立たない事はないな」
「へ?」
「少なくても役に立たない事はない」
「それはどういう意味……ひゃっ」

追及できないように顔を耳に近づけて息を吹き掛けた。
答えはいらない。ただ興味があるだけで十分だ。



H24.1.30

答えはいらない
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