novel top ▲部下であるヴァーミリオン少尉の部屋の扉前。呼び鈴を鳴らしても出る気配がなくこのまま戻るか考えていた。
少尉の休暇を許可はしたが休暇前に出すよう言っておいた書類が見当たらず、連絡をしても出ないため直接出向いたが出てくる気配がない。
苛立ちながら試しに開閉ボタンを押した。
「……開いた?」
ロックをし忘れたのかドアは開いた。
少尉ならロックのし忘れが容易に考えられるだけにいるかどうかの確認をするために中に足を踏み入れた。
入りドアが閉まると屋内の明かりはついていた。
「少尉、いるなら返事をしろ」
奥に進む。さほど広い部屋でもない。何もない部屋ではないが散らかっているわけでもなくある程度物が置かれている。
「……ん」
微かに声が聞こえそちらに目を向けるがすぐには見当たらない。
「少尉」
呼び掛けるが反応がないため近づくとソファの奥に足が見えた。
「……あれだけ呼び鈴を鳴らして気づかないほど寝入っていたわけか」
近づくと床でヴァーミリオン少尉が寝ていた。何か胸に抱きながら気持ちよさそうに寝ている。
呆れて何も言えずにソファに座る。足元では少尉が眠り続けている。
「休暇を寝て過ごすとは計画性が全くないな」
言いながら部屋を見回すと淡い色に統一され、所々にぬいぐるみが置かれていた。
下に視線を向けると少尉は似た物を胸に抱いていた。
「んん……」
「擦り寄るな」
なぜか身体を僅かに動かして足に寄ってくる。寄らないように足蹴にしようとするがあまりにも気持ち良さそうな寝顔に呆れ、足を離れさせるだけにした。
呆れしか出てこずため息を吐いて顔を上げる。これでよく落ち着いて寝られるものだと思う。しかも床で。
呆れはするが少尉ならやはりあり得ない事でもなく、驚きもない。
起きる気配もなく、呆れ果て起こす気さえなく戻ろうと立ち上がろうとした。
「なっ……」
その瞬間片足に重みを感じて下を見ると少尉が胸に抱いていたぬいぐるみが床に投げ出され、代わりに僕の足にしがみついていた。
「何をやってるんだ貴様は」
寝ぼけるにしてもわざわざ抱いていたものを変える必要はないだろう。
振りほどこうと足を軽く振るがしがみつく力が強まっただけだった。
「ん〜……ふふっ」
しまいには笑いだした。
「ヴァーミリオン少尉」
さすがにこれはないと起こそうと呼び掛けるが起きない。
前屈みになり少尉の耳元に寄り口を開いた。
「ヴァーミリオン少尉」
「は、はいっ」
耳元に低く呼び掛けるとやっと返事をして顔を上げた。
「キサラギ少佐?またまた……私は休暇中だって知ってますよ〜。だから夢です、夢」
「休暇中だが夢ではない。起きろ」
再び寝入ろうと目を閉じるが両頬を摘まみ無理矢理顔を上げさせる。
至近距離で少尉は何回か瞬きをして目を見開いた。
「ひはらひひょうひゃ!?いたっ!」
やっと起きた事を確認して頬を引っ張ってから離す。
「起きたら離れろ」
「え?あ!何で私少佐の足に!?」
状況がわかったのか慌てて腕を離して起き上がり目の前に正座した。
「あの、一つお聞きしていいでしょうか?」
「少尉は今日休暇だ。だが提出するはずの書類がない。連絡もしたが応答がなかったから訪問した。出て来なかったため開閉ボタンを確認したらロックを忘れていたため確認のため入った。わかったか」
「……ありがとうございます」
一気に捲し立てて説明してやると身を縮ませて俯く。
「足にはしがみつかれるしで散々だ」
「すみません。無意識にやってたみたいで……まさか少佐の足だなんて」
「では何だと思ってしがみついた」
問うと少尉は驚いて顔を上げた。言いにくそうにするが言うまで動くつもりがないのを示すように足を組んで深く座りこむと一度視線を外して上目遣いで口を開いた。
「温かくて可愛いものだと……」
「可愛い?」
「どんな物かはわからないんですけど私可愛い物が凄く好きで…抱き締めなきゃって」
「そしたら僕の足だったのか」
「はい……」
頷いて俯く少尉にため息を吐いて組んだ足を戻す。
「疲れたな」
「すみません」
「そう思うなら茶ぐらい出せ」
「え?」
「もう一度言わなければわからないのか」
「いえ!今用意します!」
言いながら立ち上がり茶の用意に行った。
書類の件は戻ってからでいいだろう。
「前にもあったな」
背もたれに体重をかけて見上げながら先日昼に寝てしまい起きると少尉に抱き締められ胸の中だった事を思い出した。
なぜ起きてすぐに声をかけなかったのかはわからないが、不快ではなかったからかもしれない。
「理解できないな」
部屋を見回して少尉の部屋を確認して呟く。
理解はできないがここにいることに抵抗はなかった。それは胸の中で起きた時にも似ていて、不思議とまだここにいてもいいとさえ思った。
H24.7.19
胸の中と似て
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