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予定よりも早く執務室へ戻ると部下が優雅にお茶をしていた。

「しょ、しょうさ……?」

ヴァーミリオン少尉がカップを手にしたまま硬直する。微かに口は動くがほとんど声は出ていない。
無言でドアを閉め、いつも通り自分の普段使っている机へ近づいていく。
今は部下がお茶を楽しんでいる最中の机へ。

「っ……あ、あの」
「そのまま座っていろ」

目の前まできて見下ろすと少尉はやっと動き、立ち上がった。それを阻むように告げると怯えながら慌てて腰を下ろした。

「優雅にティータイムか」

ご丁寧に書類は端に避けられ、ティーカップとポット、小さな菓子が入っている籠が机に置かれていた。

「確か、休憩時間だったな」
「は、はい……」

わかっていることをわざとらしく確認すると顔を俯けさせる。
ヴァーミリオン少尉の前には剥がしかけた包装の菓子があった。

「立て」
「はいっ」

勢いよく立ち上がり、僕が椅子に近づくと後ずさるように椅子から離れた。
今しがた少尉が座っていた席に座り、少尉を見上げる。

「休憩時間ならまだ休憩しているといい」
「は、はい……申し訳ありませんでした」
「待て」

怯えながら離れようとする少尉の腕を取り引き寄せる。

「きゃっ……」

予想外の力に体勢を崩した少尉は僕の膝の上に座った。
横向きで座ったため顔が近く、状況が把握できない少尉が驚きながらも凝視してくる。

「裾を直さないと見える」
「へ?あっ」

気をそらすために言うと自身のスカートを見て裾を引っ張った。
その隙に包装を剥がしかけていたチョコを手にする。

「キサラギ少佐?」

包装を剥がし中に入っていた小さな正方形のチョコレートを手にした。その様を少尉は不思議そうに見ている。

「食べたかったのだろう。ならば食べさせてやる」
「へっ!?い、いいです!大丈夫です!」

断り立ち上がろうとする少尉の腰に腕を回すと立ち上がれずに足の間に填まってしまったかのように座り込む。

「どうして……ですか?」
「休憩時間だからだ」

微かに涙目になった瞳が揺れ、顔に寄せたチョコレートに視線が向けられる。

「早くしないと溶ける」
「……はい」

おずおずと口を開いたのに反して素早く寄せられた口にチョコレートを一口で食べようとしたのがわかった。

「あっ」
「一口で食べるな」

寸前でチョコレートを遠ざけると声が上がる。まるでおあずけと言われた動物のような不満そうな表情に笑いそうになる。

「早くしろ」

急かすと躊躇いながらも再びチョコレートに口を寄せる。
少し出された舌が側面を嘗める。一度舌が引っ込み甘みを堪能しているかのようだった。
すぐに口を開いて端をかじる。

「んっ……」

チョコレートを唇に押し付ける。上目遣いでこちらを見るもすぐに前を見つめてチョコレートを嘗めて、かじりながら食していった。

「ふ……っ」

指に唇が触れようと構わずにチョコレートと一緒に押し込むと生暖かい感触が触れた。
掴むものがなくなると指についたチョコレートを嘗めとるように舌が動くのがわかる。

「綺麗な食べ方とは言えないな」

口元には溶けたチョコレートがつき酷い有り様だった。だが汚した事への優越感のようなものがあり汚ならしくは感じない。むしろいつもとは違う表情を見せるヴァーミリオン少尉を楽しんで見ていた。

「あ……」

指を引き抜くと名残惜しそうな声が漏れ、自身でもそれに気づいたのか恥ずかしがるように顔を俯けた。

「ヴァーミリオン少尉」

呼び掛けると反射的に顔を上げた少尉に顔を近づけると、身体が強張るのがわかった。

「ん……」

構わずに唇を寄せて、舌で少尉の唇を嘗めると身体が揺れた。体勢を崩さないように腰に回した腕に力を入れる。
しばらく嘗め、甘ったるいものが口に広がる。
唇を離すと少尉はきつく両目を閉じていた。

「甘いものを食べたから喉が渇いた」

そう告げて腕をほどくと少尉が目を開けた。慌てながら立ち上がる。

「い、今お茶をいれてきます!」

そう言うとよろけながら部屋を出て行った。
出て行ったのを確認すると笑いが漏れた。
まだ身体に少尉の感触が身体に残っていた。それだけではなく表情も全て。

「……甘いな」

まだ溶けたチョコレートがついた指を嘗めて呟いた。


H24.9.6

甘味
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