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執務室の前で深呼吸。衣服のスカート丈はいつものものとさほど変わらないのに気になって後ろを引っ張ってみる。
「……よし」
まだ覚悟は決まっていないものの人が通る前に入らないとと思うと扉に手が伸びる。
開いた扉に勢いよく足を踏み出した。
「メリークリスマスです!キサラギ少佐!」
一瞬時が止まったような錯覚をした。
正面の机にいるキサラギ少佐からの視線が痛い。
「……クリスマスは来週だと思ったが?」
「ま、まずそちらなんですね。来週は仕事が建て込むと思いまして今週決行してみました!」
恥ずかしさを紛らわすように大きな声が出る。私にしては珍しい気もしたけれどこの格好のおかげもあるのだろうか。
「それでその赤い服か」
「サンタ服です!少佐がクリスマスの理想的な過ごし方でサンタが見たいと雑誌で答えられていたので」
先日発売された雑誌が頭を過る。なぜかキサラギ少佐の秘書官という名目で半ば強制的に質問用紙を渡され答えた。
それを他の衛士が読まないわけがなく恥ずかしかった、はずなのに流れで私がサンタの格好をしていけば喜ぶのではないかという話になってしまい今に至る。
「適当に回答したに決まっているだろう」
「そうですよね……」
何となく予想はついていた。他の衛士には真面目な回答に見えても私はキサラギ少佐がインタビュー等を億劫そうにしているのを実際に見ている。
「わかっていてそんなものを着るなんて馬鹿か」
「……一応この格好でキサラギ少佐の前に来たという事実が欲しかったので」
喜ぶはずがないとはわかっていたけどこんな格好をして辛辣な言葉を浴びせられては落ち込む。泣かないようにしながらも顔は下に向いていた。
やがて聞こえよがしなため息が聞こえ、踵を返そうとする。
「待て、少尉」
「は、はい」
呼ばれ顔を上げる。
「何かをしようとしてるのは衛士の態度からわかっていた。大方この部屋の周りにでも潜んでいるだろう」
「つまり私があまりにも早く出ていけば質問攻めにあって疑われると?」
「僕は別に構わないがうるさいのもいるからな」
キサラギ少佐は人気がある。女性衛士の中には近づこうとする人もいる。でも少佐と私の仲を勘違いして近寄らないようだった。
誤解を解こうと思ったら少佐に煩わしい衛士を近寄らせずに済むと誤解されたまま。
「適当に時間を潰していけ」
「仕事は……」
「今日のお前ができる仕事は終わっているだろう」
「……はい」
つまり余計なことはするなということだと察し普段自分が使う机に向かい椅子に座る。
赤い陽気な服で仕事をする机にいる自分に違和感がありおかしかった。
「お前も同じ質問に答えていたな」
「はい。それも原因でこんなことに……」
「“今は家族や友人とは過ごせないが可能なら過ごしたい。恋人ができたら一緒にいて抱きしめてもらいたい”か」
「しょ、しょうさ!?」
自分の回答が読み上げられ驚き立ち上がる。
気づけば少佐の机には書類以外にあの雑誌があった。
「これがもう一つの“原因”か」
「はい……」
誤解されているためサンタの格好で抱きしめてもらえばいいという話になってしまった。
そんなことをする仲でもないのに。
「来い」
言われるがままに少佐の前まで行く。
「違う、こっちだ」
横を指され早足で指定された場所に佇む。
すると少佐の手が伸ばされ手首を掴まれた。
「あ、あの」
「そもそもこんなサンタじゃろくなプレゼントを貰える気がしない」
「女性物だとこれぐらいしかなくて……」
もう片方の手が腰に伸び下がっていき裾を引っ張られる。
「ひゃっ!」
腕を強く前によろけそのまま少佐にしがみつくような体勢になってしまった。
「それでプレゼントは用意したのか?」
「え?」
「サンタの格好をしてプレゼントも用意していないのか」
「は、話さないで下さい少佐。……くすぐったいです」
少佐の口元が首元にあり、話す度に漏れる息があたり変な感覚がする。
肩を出している服で肌に直接あたる息に意識しないわけがなかった。
「きゃっ」
「耳元で変な声を出すな。うるさい」
少佐の手が腰からまた下がる。でも今度は後ろだったためお尻を撫でられたように感じ声が上がった。
「回答するならもう少しマシなことを書け」
「ま、ましってどんなですか?」
「あれではいないように思われる。試されたんだろう」
「あ……」
指摘されて気づく。誤解されているのがあの私の回答では少佐との仲の誤解が解かれかねない。
妙に絡んでくるとは思ったけど少佐のいう通り試されたようだった。
「以後気をつけます。少佐?」
腰を引き寄せられ更に身体が密着する。状況が状況だけどこれではあの回答が半ば叶っているような状態だった。抱きしめられているというところだけ。
「しょう……っ」
首筋に顔を埋め黙る少佐にもう一度呼び掛けようとすると首筋に微かな痛みが走った。痛みとはまた違うのかもしれないもどかしい感触に目を瞑る。
「……これでいいだろう。見られたら早い誕生日プレゼントだとでも言っておけばいい」
少佐の顔が離れても熱い箇所に更に息がかかる。
「……恥ずかしくて外に出ていけません」
「出ろ」
「む、むりで……」
「出ていきたくしてやってもいい」
遮られ嫌な予感がすると少佐の手が身体を這い出した。先程のとは違う動きに驚いて離れようとするも腰を押さえられ離れられない。
「しょ、しょうさ」
観念して首筋の跡をつけたまま部屋から出るまで時間はかからなかった。
「ん……」
目を開けると魔操船の中で座ったまま眠ってしまったようだった。
カグツチに向かう少し前の出来事の夢。首筋に手を触れてみてももうあの跡はないことはわかっている。でも微かにあの熱い感触が思い出せる気がした。
キサラギ少佐の誕生日プレゼントは仕返しをしようと涙目になりながら決意した事が過って笑ってしまう。
「……渡せますよね」
もうすぐで彼の誕生日。きっとおめでとうと言える。プレゼントを渡せる。
一度目を瞑り首筋にあてた手を握りしめ目を開け顔を上げた。
もうすぐでイカルガに到着する。
H24.12.28
熱い感触
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