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時刻を確認すると思っていたよりも時間が過ぎていた。
朝書類を束で持っていったまま一度も戻ってこない部下。通常なら2、3度は戻ってくるかこの部屋で作業をしている。
「そういえば何も言っていなかったか」
朝の光景を思い出し呟く。あやふやではあるが声を発した覚えがない。
「入れ」
ノック音がし入室を促すと朝に一度訪れていなかった部下が姿を現した。
やはり何も言わずにこちらに向かい机の上に書類を置いた。
数枚取り軽く確認する。
「何故今まで来なかった」
書類に視線を向けたまま問うが返ってはこない。こんなこともすぐに答えられないのかと苛立ち顔を上げるとペンを手にし何かを探していた。
「何だ」
言うが手を振り回すだけで何がしたいのかさっぱりわからない。
「貴様の口は飾りか」
立ち上がり片手で顔を掴む。驚いて見開かれやっと口をきくかと思えば開きかけた口を再び閉じた。
掴んだ顔を引き寄せ眼前まで距離を詰める。段々と瞳に怯えの色が見え始めると微かに音がし下に視線を向けた。
“少佐が答えていたので”
かろうじて読める字が書類に構わず書かれていた。
頬に指が食い込むように強く掴む。
「僕のせいだとでも言いたいのか?」
小刻みに横に首を振る。再び読みにくい文字を記していく。
“雑誌で誕生日のプレゼントについて答えられていたのを見たんです”
雑誌と見てたまの煩わしい取材のことかと思い当たる。そして今日が自分の誕生日だと気がついた。
今までは誰かしらが誕生日プレゼントだと一方的に渡してきて気づいたが今回はそれがなかった。
「静かに過ごしたいと答えたから実行したわけか」
取材の質問への書いた回答を思い出し半ば呆れながら顔を掴んでいた手を外した。
「今日誰も来ないのは貴様が根回ししたのか」
両頬をさする部下であるヴァーミリオン少尉に問う。
相変わらず声は出さずに戸惑いながら頷いた。
「声を出せ。話さない方が面倒だ」
「……はい」
椅子に再び座りやっと声を発した少尉に先ほど字を書いた書類を差し出す。首を傾げる少尉に構わずに押し付け受け取らせた。
「そんな字が書かれている書類が使えるわけないだろう。書き直せ」
「あ、はい」
やっと理解し背をむける。
「ここでだ」
「え?」
振り返る少尉には顔を向けず書類の確認をしていく。
「いちいち移動していたら時間の無駄だ」
「……そうですね!」
どこか明るい声が聞こえるが特に返さずにいつも通りに雑務をこなしていく。
特別な日などありはしないが日常とかわりなく過ごす誕生日。それが誰かの余計なことだとしても悪くはない。
H26.2.14
日常の誕生日
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