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「何しに来たんだよ、ウサギ!」
「弱い貴方が強くなろうともがくのを見に来たのよ」

森の中。私はたまにこの子供を訪ねる。
いつ来ても傷だらけで目つきも悪い。何度繰り返そうと彼はかわらない。

『邪魔だ、ウサギ!』
『ウサギ?』
『髪のリボンが耳みたいだろ』
『あぁ……』
『それと小さいからな』
『小さい貴方に言われたくないわ』

はじめてウサギという呼び方をされた事を思い出した。
もうどれくらい前なのか。モノクロになりそうな記憶。

「用事ないのに来るなよな」
「あら、誰のおかげで今貴方がこうしていられるのかしら?」

今までの威勢はどこへやら、彼は下を向いてうなだれてしまう。
あの時の事を思い出していたのだろう。彼にとっては最近の事でも私にとっては随分前の事。
焼け焦がれた教会の前で今にも死を迎えようとしていたあの時。

「それは……感謝してる」
「何かしら?木々がざわめいてよく聞こえないわ」

彼はちらりとこちらを見てすぐに顔を逸らした。
最近はからかわれていると気がついたのか馬鹿正直に従わなくなった。

『見た目とは大違いだな』

拗ねながらそう言った時は面白くて仕方がなかった。
どういう風に見えていたのかしら?可憐な少女?それとも寡黙?

「強くなったら礼に何かしてやるよ!」
「礼?」
「何だよ、いらねぇのか?」

私より小さくはないけれど、でも彼は子供。
この世界もまだよく知らず、力もまだつけていない子供。
なのに私はその言葉に嬉しさを感じていた。

「そうね、楽しみにしてるわ」
「お前がそういう時は楽しみにしてない時だろ」
「そんな事はないわ。私は貴方だと思ったから……」
「何だよ」

きっと彼が扉。
私は傍観者だから何にもなりえないけれど、この舞台から彼が私を出してくれるはず。

「変な顔するなよ、調子狂うだろ」
「狂わせたいわ」

私は貴方に介入しすぎているかしら。
でも貴方を舞台に上げるのは私なのだからこれぐらいはいいわよね。

「本当変な奴」

そう言って彼は私の頭を撫ではじめた。
最初は子供扱いしないでと振り払っていたが次第にそれは彼の優しさなのだと気がついた。
言葉にはなかなかできないから。私もそう。

「なっ、何だよウサギ!」
「すぐ大きくなってしまうからそうなる前にしてみようかしらと思ったのよ」

彼を抱きしめ、背中をさする。まだ体格はそんなに大きくないから私でもまだ抱きしめられる。
ふいにこのままでいれば彼にもいい事なのかもしれないと思った。
私は彼がいれば楽しい。
でもそれでは駄目。

「ウサギ、離せよ」
「もう少しだけこうさせなさい」

無理矢理引きはがされる事はなかった。それは私の様子が変だったからだろう。
私は彼を救いながらも残酷な事をしている。傍観者として彼を見てきて、彼のはじまりとおわりを知っている。
いつも同じ。私は結局彼を救えない。

「お礼なんて本当はいらないのよ」
「は?」
「何でもないわ。お茶にしましょう」

身体を離すとわけがわからなさそうに彼が私を見ていた。

私は彼に救ってほしいのかもしれない。
彼のいなくなる舞台をずっと見続ける私を。


H21.7.26

彼のいなくなる舞台をずっと見続ける私を
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