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「ラグナ、座ったらどう?」
突然自分の屋敷に連れ出しておいて謝りもしない。
今更だから何も言わない。
庭園で優雅に茶を飲むレイチェルを背に俺は地べたに座っていた。
「人の家に来て挨拶もできないのね」
「てめぇがいきなり俺を此処に連れてきたんじゃねぇか!」
このまま何も言わないでいれば罵倒されるだけだ。
なら言い返したほうがいい。黙っていても苛つくだけだ。
「そちらには誰もいないわよ、ラグナ」
カップが受け皿に置かれる音が聞こえて立ち上がった。
レイチェルの向かいに用意されていた椅子を思いきり引いて座る。
その光景を可笑しそう笑った。
「ラグナはわかりやすいわ」
「悪いかよ」
わかりにくいよりわかりやすいほうがいいに決まっている。
「だから飽きないわ」
レイチェルは置かれていたポットを手にしもう一つのカップに中身を注いだ。
受け皿に置いて俺に差し出す。
断る理由もなく受け取る。
「わかりやすいから覚えやすい日に生まれたのかしら」
「は?」
一瞬何の事かわからなかった。
そしてすぐに自分の誕生日に行き当たった。
そういえば今日は俺の誕生日だ。自分で自分を祝うのもおかしいし誕生日が過ぎた事に気付いたら歳を重ねていた。
「ん?」
腕を組んで思わず考えこむ。
誕生日が過ぎた事に気付くのが何故かレイチェルが現れた後だったような気がする。
いつものように現れて邪魔したりからかったりしながらも……。
「時々甘い物を渡しに来たよな」
レイチェルに対して言ったが目線は下に向けたまま独り言のように呟いた。
カップを持ち上げたのが見えて沈黙。
「甘い物で自分の誕生日を思い出すなんて単純ね」
「あまり食わねぇから前の時もそういや誕生日過ぎたぐらいに食ったな……って、もしかして毎回誕生日に持ってきてたのかよ?」
甘い物を貰ってから当日に気付く事もあれば、数日して何で甘い物なんて持ってきたのか考えて気付く事もあった。
日付なんて覚えてるわけがない。
今日の日にちだって気にしていない。
カチャンと先程より大きな音を立ててカップが置かれた。
顔を上げるとレイチェルはあくまで無表情だが顔を背けている。
図星のようだ。珍しく今は人の事が言えないぐらいわかりやすい。
「何だよ。ならちゃんと祝えよ」
「たまたまよ」
「今までの会話からそれは無理があるじゃねぇか」
「物欲しそうにしているから恵んだだけよ」
俺もたいがい素直じゃないがこいつも同じだな。素直になられたほうが怖いけどな。
これ以上追求しても不機嫌にさせるだけだ。それに聞かなくてももうわかった。
ならそれでいい。
「で、今回は何でわざわざ呼んだんだよ」
毎回渡しに来ていたのに今回は俺を呼び出した。
何か今までとは違うのか。ただの気まぐれなのか。
「違う事をしてみたかったのかもしれないわね」
「は?」
意味がわからなかった。
違う事っていうのは今までとって事か?
それにしてはレイチェルの表情はどこか淋しそうだった。レイチェルには似合わない表情だ。
「さっさと出せよ。恵んでくれるんだろ?」
でもその表情に対して何かを言うのは俺には似合わない。それにレイチェルも望んでいない気がした。無意識にしてしまった表情なのだろうから。
こんなにこいつの事がわかった気でいるのは正直よくわからない。
わからないよりはわかったほうがいい。それでいいじゃねぇか。
だから俺はいつも通りにする。
「仕方ないわね」
いつもの微笑を浮かべて菓子を持ってこさせる。
ただの茶会だが、何かが違う。
端から見ればわからないが、俺とレイチェルが互いにそれをわかっているだけでいい。
それを口にはしなくても。
“誕生日に呼ばれたのだから祝われてやるよ”
それも口にはしなかった。
H22.3.3
互いにそれをわかっているだけでいい
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