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かの六英雄の一人が佇んでいた。
もっとも私は彼がいる事がわかってこのカグツチの最深部を訪れた。
「傍観者は傍観者らしく振る舞ったらどうだ」
私を背にしながら白い巨躯から声が響く。
人の持つ通常の視界等彼にはもうない。あっても面が遮っているのだけど。
彼なら見えずとも気配で察知できるだろう。
「見物に来ただけよ。変わらない終わりを特等席で見るのも悪くないわ」
僅かに身体が動いた。
自分が此処にいる意味を否定されたように感じたのだろう。
私はそのつもりで言った。
「何もせぬ傍観者が何を言う」
低く逆なでするように彼は言う。
それは私を笑っているようだった。
私がしたはずの事を返される。堪え難い侮辱だった。
憤り、横を静かに浮遊しているギィを掴もうとして手を下ろした。
「どうした」
「貴方は知っているはずよ。この繰り返される世界から脱出する“鍵”を」
まだ鍵としては不十分な存在。
少しずつ生まれたズレにより鍵として成り立つ。
今回の舞台には存在していないけれど。
「“知らぬな”」
「イレギュラーな存在は認識できないなんて愚かね」
繰り返される舞台上では会っているはず。でもそれを鍵と認識できていない。
彼は終わらせるためにここにいるはずなのに、決して終わらせる事ができない。
無力な存在。どちらの英雄も自分の望むものを成し遂げられない。
「去れ。もう時間だ」
「そうね、そろそろ準備が終わるはずだわ」
「何?」
聞き返してきたと同時に彼の姿が揺らぐ。
この舞台では死神に会う事がなかった彼に目を向ける。
「全てわかっていたか」
私は無言のまま、この場に一人になるのを待つ。
しかし消える前に彼は振り返った。面がこちらに向けられ、奥にある瞳が見ているはずがないのに見られているような気になる。
「この場所に手繰り寄せられたのよ、貴方も」
「貴様もか」
答える間もなく、白い巨躯は消えた。
答えるつもりなどなかったけれど。
この繰り返される舞台を終わらせる者として手繰り寄せられたのならいいかもしれない。
でも私は傍観者としてここにいる。
繰り返されるとわかっている意味などないのだろう。
「……レイチェル?」
立ち去ろうとする直前、背後から声が聞こえた。
私が気付かないなんて失態だわ。
「あら、死神さん。来る場所を間違えてるんじゃなくて?」
今回のこのカグツチでは初めて会う死神に振り返った。
私がこんな場所にいるとは思わなかったのだろう。訝しげに私を見つめている。
「お前、誰と話してた」
「おかしな事を言うのね。この場所には私しかいないというのに」
「いただろ!確かに……」
死神と呼ばれている男は苦悶の表情を浮かべている。
先程までいた存在の強さを悟ったのだろう。
確かに彼は強い。でも強いだけは駄目なのだとわかっていた。
「おい、答えろよ」
「今回は帰るわ。貴方と会うつもりはなかったのだけれど……これもズレなのかしらね」
「は?」
歩み寄り、男を見上げる。
図体だけは大きくなって態度も大きい。私を飽きさせない存在。
「ラグナ」
「な、何だよ」
男の名を口にしてじっと見る。
名を口にした意味も、凝視する意味も思い浮かべる事もせずただラグナの前に佇んだ。
この舞台もいつもの終わりを迎える。
この瞬間にラグナに会うとその終わりを改めて実感してしまう。
彼には必ず会える。死に瀕する絶望した彼に。
「おい」
黙る私に戸惑いながら肩を掴み揺さぶってくる。
乱暴な動作にいつもの彼を感じた。
先程までいた彼と同じ者を待っていたのかもしれない。
その行為に意味はないとわかっていても。
「また会いましょう。ラグナ」
「もう来るんじゃねぇ」
「いつもそうね」
見上げた顔を正面に戻し、ラグナを横切った。
「ちゃんと帰れよ」
その言葉が聞こえたのは空間転移の暗闇の中に入ってからだった。
変わらない舞台が終わりを迎える事を望みながら、変わらないラグナに安堵する。
この矛盾はズレなのかしら。
ラグナが舞台に上がるようにしているのは私。
もうその時点でズレが生まれてるのかもしれない。
私も手繰り寄せられたのだろうか。
この舞台に。
観客は舞台に上がる事を望むのか。今の私ではまだわからない。
「観客である私自身がわからないなんておかしなものね」
私はまだ傍観者であり観客でしかない。
その事実に少しだけ悔しさを感じた。
H22.6.12
その事実に少しだけ悔しさを感じた
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