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「ではレイチェル様、御用の際はお呼び下さい」
「わかったわ、ヴァルケンハイン」
ウサギの執事はテーブルにティーポットを置くと礼をして消えた。
この薔薇庭園から城は見えるがどこから入るかわかりゃあしねぇ。空間転移専用の城なのか?
「ラグナ、そんなに見て城へ入りたいのかしら?」
「そんなわけねぇだろ」
レイチェルは薄く笑むとカップを口に寄せた。味わっているのか目を伏せている。
「椅子に足を立てないで」
「いいだろ別に」
「見苦しいわ」
これ以上言っても平行線のままどころか雷を落とされかねないため渋々足を下ろした。
薔薇庭園に置かれたテーブルに二脚の椅子。また突然空間転移をさせられ、そこへ座っていた。
テーブルには色とりどりのお菓子。残念ながら肉はない。
だからカップにも手をつけずにいた。
「せっかくヴァルケンハインが容れたのだから冷める前に飲んだらどう?」
「あいにく熱かろうが冷めようが紅茶の味はよくわからねぇからな」
「そう」
レイチェルはただそう告げてまたカップの中身を口に含む。伏し目がちでどこを見ているのかはわからない。
目の前にあるカップに目を向けると表面に自分が映っていた。濁らずに透けている中身。レイチェルはこれを見てたのだろうか。
「……?」
カップを少し持ち上げると下に何かある事に気がついた。
カード。そこには文字が記されていた。
カップを上にずらしてみる。
「ラグナ?」
「……レイチェル、どうして今日俺を呼んだ?」
顔をレイチェルに向けて聞くと珍しくうろたえたそぶりを少しだけ見せた。
平静を装ったつもりだがいつも余裕のあるそぶりを見せているだけに僅かでもわかる。
「特に理由なんてないわ」
「嘘だろ」
否定しようとしたようだがやめたようだった。
一瞬視線を逸らして再びこちらを見てくる。
「今日はハロウィンよ。ラグナを呼んだのはただの気まぐれ」
「そうかよ」
あくまで俺を呼んだのに意味はないと言うレイチェルに笑いを堪えた。
ハロウィンは昔師匠に聞いた事があるけど師匠もよくわかってなかったような行事だ。
確か菓子を貰ったり悪戯したりするとか説明された気がする。
「不愉快だわ」
「はあ?」
「貴方のにやついた顔が不愉快だと言っているの」
「生まれた時からこんな顔だ」
笑いは堪えたつもりだったが完全には無理だったらしい。
そしたらレイチェルが怒りだした。いつもなら理不尽に思えるのに今は理由がわかるだけに笑いそうになる。
「だからそのにやけた顔をやめなさい」
「無理言うな。お前がそんな可……」
「“か”……何かしら?」
レイチェルに促されて慌てて口を片手で押さえる。
何を口走ろうとしたのか自分でもわからなかった。
「……何でもねぇ」
レイチェルは自分も追求されたくないからかそれ以上追求してくる事はなく、置いていたカップを再び持ち上げた。
目を伏せてカップを傾けた時に俺の前にあるカップの下に敷かれたカードを抜き取り、ズボンのポケットへ突っ込んだ。
「どれが一番旨いんだ?」
「ヴァルケンハインのお菓子はどれも美味しいわ」
と言われても目の前には沢山の菓子がある。迷った末に目の前にある物を取ろうとした。
「これにしなさい」
「何だよ、あるのかよ」
「どれも美味しいと言っているでしょう」
レイチェルが小皿を差し出してきて受け取る。のっていたの小さなケーキだった。
「じゃあお前のおすすめってやつか」
レイチェルは何も答えずに視線を紅茶に戻した。
渡されたケーキを手で掴んで一口で食べると口の中に程よい甘さが広がる。
そして紅茶を飲んだ。少し温くはなっていたが俺にはちょうどいい。
「旨いな」
「……フォークぐらい使いなさい」
「はいはい」
ポケットに突っ込んだカードには今日がレイチェルの誕生日だと書かれていた。
レイチェルが俺を呼んだ理由はわからない。でも自分の誕生日と関係しているんだろう。それを言わないのが何だか……不思議な感覚だった。
「茶はこれから容れればいいのか?」
「貸しなさい。貴方がやったら割りかねないわ」
レイチェルにカップを受け皿毎渡すと空になったカップにティーポットから茶を注いだ。
普段ならやらない事だろうにやるのがやっぱり不思議な感覚だが指摘しないでおく。
カップに中身を注ぐレイチェルが笑っていたから。
いいだろう。こんな日ぐらいはウサギとお茶会をしても。
H22.10.31
ウサギとお茶会
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