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「そういえば前に貴方に水をかけられた事があったわね」
「覚えてねぇな」

城の前の薔薇庭園にテーブルを起き、気まぐれなティータイムを楽しむ。
向かいに座るラグナはカップに口をつけて視線を上に向けた。明らかに覚えている態度に笑みが浮かんだ。


「ウサギ」

森の中。目の前で獣兵衛に言われ一人特訓をしていたラグナが私に話しかけてくる。
でも視線を合わせながら私は返事をしない。

「目開けて寝てんのかよ!」
「うるさいわよ、ラグナ」

川に腰まで浸かせていたラグナが岸まで上がり、佇み見ていた私に怒鳴る。

「水がかかるわ。もう少し離れなさい」
「何でお前が見てるんだよ」
「あら、私に見られていたら困るの?貴方が怠けないように見ていてあげているのに」
「怠けねぇよ!」

言いながら背を向け乱暴に川に入っていく。
でも特訓を再開するわけでもなくちらりと私を見てきた。

「暑くないのか?」
「暑い?」
「あの化け傘みたいなのもいねぇし」

ラグナがナゴの事を言っているのだとわかる。ギィとナゴは今は獣兵衛についていっていていない。

「このぐらい対した事ないわ」
「こっちが見てて暑いんだ、よ!」
「っ……!」

岸ぎりぎりまで来るとラグナは両手に水を掬って私に向かってかけた。
予想外の行動に避けられずに顔や服に水がかかる。

「……ラグナ」
「おい、何で怒ってるんだよ」

僅かに後退りするラグナに近づいていく。でもすぐに川まできてしまいそれ以上進めない。

「言い訳ぐらいは聞いてあげるわ」
「暑そうだからかけてやったんだよ!」
「随分素直ね。でもお仕置きよ」
「ちょ、待て!」

雷を落とそうとするとラグナが慌てた様子で駆け寄り私の手を掴んで引き寄せ、勢いで倒れた。

「っ……全身びしょ濡れだな。まあいいか」
「いいわけがないでしょう」

一瞬水の中に身体が沈んですぐに上がった。ラグナの胸に倒れ込んだらしく、ラグナが身体を起こしたからだった。
まだ然程体格が変わらず顔の距離も近い。睨むとラグナは悪戯が成功したような子供の顔を浮かべた。

「これで雷は落とせねぇな!涼めるしよかったな」

あまりにも無邪気に言うものだから視線を外して胸に顔を埋めた。ラグナの微かに身体が強張り緊張したのがわかる。
身体には服が張り付いて気持ちが悪いけど居心地は悪くなく、お仕置きはあとにしてあげることにした。


「嘘をついた罰よ。ヴァルケンハイン、ラグナが涼みたいそうなの。水をかけてあげて頂戴」
「畏まりました、レイチェル様」
「ま、待て!思い出した!思い出しました!」

そう言っても仕事の早いヴァルケンハインはすぐに現れてラグナに大量の水を頭上からかけて礼をして消えた。

「あの時のお仕置きがなかった事も思い出したかしら?」
「……だからしらばっくれたっていうのによ」

立ち上がり水浸しになったコートを地面に放り投げる。

「お前楽しんでるだけだろ」
「当然よ。楽しいわね、ラグナ」
「そうかよ」

不機嫌を表すように思い切り椅子に座り直す。カップを口につけて噎せた。

「馬鹿ね。中身は先程の水よ」
「わかってるなら淹れ直せよ!」

ラグナの文句を聞きながら笑んだ。
水に浸る思い出は今の彼との思い出。ラグナが覚えているとラグナがいるのだという実感が湧いて嬉しかった。


H24.7.23

水に浸る
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