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目を覚ますとなぜか俺は縛られて地面に這いつくばっていた。
「なんだ……?」
「緊張感のない第一声ね」
生温い風が吹いたかと思えば聞き覚えのある声が頭上からした。
寝ぼけていた頭が醒め、嗅ぎなれた薔薇の香りを感じて今いる場所を把握した。
「これは何の真似だ、レイチェル」
目の前にいるレイチェルを見上げる。
ここはレイチェルの家、アルカードの城が見える庭園だ。
「ごきげんよう、ラグナ」
レイチェルは優雅に挨拶なんてしながら屈みこんでくる。
睨み付けるとレイチェルの指先が俺に向けられた。
「貴方、お菓子は持っているの?」
「はぁ?」
唐突な問いかけに間の抜けた声が出る。レイチェルの表情から笑みが消え、指先が顎にかかる。
「おい、これをほどけっ」
「辛いの?お菓子を持っていないならどうしようかしら」
顔を無理に上げさせられて体勢が辛くなる。
レイチェルは今度は嫌な笑みを浮かべる。何か企んでいるような遊びを考えているような表情だ。
「それでお菓子は持っているの?」
「持ってるわけねぇだろ!俺が普段から菓子なんて持ってたら気持ち悪いだろ」
「非常食が精々ね。腹が満たされないものを持ってそうには見えないわね」
「じゃあ訊くな!そんなに菓子が欲しいなら執事のじいさんに頼めよ!」
「……うるさい犬ね」
「わっ!」
勢いよく顎から指先が離され地面に顎を打つ。
文句を口にする前に頭に触れられたのがわかり文句を飲み込む。
「できたわ」
「は?」
レイチェルが呟き立ち上がったと同時に縛っていた戒めがほどかれた。
身体を起こして恐る恐る頭に触れてみる。
「何だよ、何もして……何かある」
「愚鈍ね。耳よ、白い犬の耳をつけたのよ。大きくてふさふさしている」
レイチェルに説明されながらまさぐってみると奇妙な感触がした。
「いててっ」
「何をやっているの」
「飾りとかじゃねぇのかよ!痛覚もあるぞ!耳が4つっておかしいだろ!」
レイチェルを見上げて訴えるとレイチェルはうるさそうに顔を微かにしかめた。
でもすぐに笑みを浮かべる。
「確かに耳が4つはおかしいわね。お化けかしら」
「おばっ!?……なわけねぇ!あれはもっとこう……よくわからないから怖い」
顔から血の気が引くのがわかるが否定する。俺が苦手なものを知っているため昔からたまに嫌がらせをされた。つまりこれも嫌がらせなわけか。
「帰せ」
立ち上がりレイチェルを見下ろす。
しかしレイチェルは取り合わずに背を向けた。
「ヴァルケンハイン、紅茶の用意をして。お茶菓子はいらないわ」
「かしこまりました」
空間転移でテーブルセットとヴァルケンハインが突然現れる。何度見ても慣れない。
「用がありましたらお呼び下さい」
「ありがとう」
呆気にとられているとあっという間に紅茶の用意をすませて消える。
「ラグナ、座って」
ここで抵抗しても仕方ないと判断しレイチェルに促されるまま、レイチェルの向かいに座る。
目の前には俺の分の紅茶も用意されていた。
「特に興味はないのだけど気まぐれでやってみたのよ」
「何の話だよ。これか?」
頭につけられた犬耳を指してもレイチェルは目を閉じて紅茶を飲んでいて答えなかった。
「……誕生日か」
呟くとレイチェルが制止し目を開けカップを置いた。
「お前の誕生日なんだろ」
「よく覚えていたわね」
「昔にも似たような事やられたからな」
「そうだったかしら」
とぼけているのか本当に記憶にないのかは俺にはわからない。でも確かに菓子を持っていないか訊かれたあとに嫌がらせをされたことがあった。
「そんなに菓子が欲しいのかよ。今日は何も持ってなくてな」
服を試しにまさぐってみるとその様子を見つめていたレイチェルが微笑んだ。
「今日も、でしょう?」
「悪かったな!用意してほしかったらもう少し前に教えに来い」
「気が向いたらそうするわ」
再びカップを持つレイチェルに倣い、俺もカップを持ち上げる。まだ温かい紅茶を口に含む。
味の良し悪しはわからないが飲んだ紅茶は美味しかった。
H24.10.30
紅茶の味
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