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見慣れぬ城内を歩く。そもそも城の中なんて歩いた事がない。知らない場所でもこんな城を持っていそうな奴は一人しか知らない。

「人を勝手に空間転移させるんじゃねぇよ」

同じような通路を歩き回り悪態が口をついて出る。
もしかしたらどこかで俺の様子を見て楽しんでるのではないかと思ったが出てくる様子はない。

「呼び出したなら用事が……ない場合もあるな、ウサギの気まぐれで」

突然現れては消え、呼び出されては戻されは幾度となくあっただけに用事がない可能性もある。
だがわざわざ今日ここに呼び出したのにはさすがに何かあるんじゃないかと考えてしまう。

「……期待なんかしてねぇ」

足を止めて呟く。
窓からは薔薇庭園しか見えず、ここがどこなのかはよくわからない。
いつかした会話が過った。

『あれハリボテか何かなんじゃねぇか』
『辿り着けない場所だからといってそんな風に言うなんて愚かね』
『じ、実は幻で実際は城とかじゃなくて普通の家で小さいとか』
『虚像で大きさを偽るなんて私がすると思っているの?』
『じゃあお前はあそこに住んでるのかよ』
『自分の目で確かめたら?』

できるならそうしてるだろ馬鹿ウサギと言ったあとは思い出したくない。

「あんな遠くにある城だからもっと仰々しいのを想像してたが普通だな」

その場で見回してみても外から見る城の中とは思えない。
広い事は広いが想像よりも家という感覚がした。

「ん?」

今までは感じなかった匂いがし鼻をひくつかせる。
縁遠いはずなのに馴染みのあるこの匂いはよく知る飲み物の香りだ。

「こっちか」

匂いのする方に足を進ませると先程は見なかった他の部屋よりも大きな扉があった。

「開かなかったら壊すからな」

城内の部屋の扉は一つとして開かなかった。これであからさまに匂いを漂わせながら開かなかった時には扉をぶち壊す自信があるし、説明もなしに放置されてそろそろ暴れたくなっていた。
そんなことを考えながらノブに手をかけると簡単に回り扉が開いた。

「遅かったわね、ラグナ」
「……あいにく、お茶の時間なんて聞いてなかったんでな」

中には予想通りレイチェルがいて、優雅にお茶の時間をしているようだった。
そんな雰囲気など無視して足を踏み出し向かいに勢いよく座る。

「ここがお前の家か」
「そうよ。幻でも何でもなかったでしょう?」

やはりあの会話を覚えていたようだった。馬鹿にしてんのかと言いかけるとレイチェルがティーポットからティーカップに紅茶を注いだ。
差し出され中央に置かれる。

「ヴァルケンハインはいないのか」
「呼べば来るわ」

いつも雑用は執事がやるのにその執事がいない。出てこれないわけじゃない。レイチェルが命令して出てこないだけ。
その意味を考えかけてすぐにやめた。どうせ答えなんてわからないんだ。悶々と考えたところで仕方ない。

「冷めるわよ、ラグナ」
「わかってるよ」

言われて中央に置かれたカップを取った。
仄かに甘い香りがする。縁遠いのに馴染みがあるのはこうしてレイチェルと飲む機会が多いからだ。だから迷路のような場所でもレイチェルの居場所がわかった。

「今度は玄関から来たいもんだな」
「あら、貴方にそんな礼儀があったのね」
「普通人の家に行く時は玄関から入るだろ」
「そうね」

笑みを浮かべ目を閉じカップに口をつけるレイチェルに倣うように紅茶を飲む。
レイチェルの住む場所にいるのは不思議な感覚だったが悪くはなかった。また来てみたくなる程度にはなる。自分の誕生日に呼び出されたのなら尚更。
レイチェルの口からは言われなくても少しだけ特別な日だと思えた。


H25.3.6

特別な日
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