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私は混乱していた。
そこには確かに知っている存在があるのに、ありえるはずがない。

「あっ、貴方は何故こんなところにいるんですか!?」

白い巨躯に白い面。
その姿は暗黒大戦に存在した六英雄の中の一人、ハクメンと同じ姿だった。
でも六英雄は行方もわからず、生きているかも定かではない。
なのに何故こんなところで会うのか。

「“何故”?」

白い面の向こうから低い声が響く。
どうやら聞き返してきたみたいだった。私の“何故”に何故そんな事を聞くのかと。

「そこを退け」
「止める理由はありませんが、私は貴方を止めなければいけない気がします」

私が答えないのを見て行手を阻む私に低く告げる。
そこに存在するだけで圧されてしまいそうなのに声等発せられてしまえば引いてしまいそうになる。
それでも私は引いてはいけない気がした。

「私を阻むか。歪みから生み出された少女よ」
「歪み?貴方は私の事を知っているんですか!?」

記憶のない私を知っているのかもしれない。
でも私は私の過去を知りたいとは思わない。
それが怖いものなら私は知らなくていい。知らないほうがいい。

「貴様が引かなくとも通れる。力なき少女に私を止められぬはずもない」

特に速かったわけでもない。なのにハクメンは私の横を抜けていた。
戦闘だったら私は確実に殺されていたかもしれない。
そう考えると恐怖を感じた。

「ま、待ちなさい!」

だけどやはりここで黙っているわけにはいかない。
慌てて横切ったハクメンに振り返る。

「え……?」

一瞬カグツチではない何処かが視界に映った。
遠ざかりかけているハクメンの後ろ姿に我に返り追い掛ける。

「用がないというのに阻むか」
「怪しい人物は止めなければいけません!たとえそれが過去の英雄だとしても」
「過去、か」

ハクメンは足を止めたはずなのに距離は縮まらなかった。
私の足がこれ以上動かなかったからだ。
先程感じた恐怖と会った時からの威圧感でもう逃げ出してしまいたい。
なのに私はどうして……。

「貴様に過去も未来もあるのか」
「わっ、私にだってあります!」

それが短い過去だとしても未来はある。現在だってある。

「おかしな事を言う。現在とてすぐに消えゆくもの。貴様の存在等言わば偶然。この幾星霜で存在を固定する事さえ叶わぬ」

饒舌になったかと思えば私にわからない事ばかり言う。
なのに悲しくなってきて、その悲しさを紛らわすように無気になって返した。

「貴方は私が偶然で生まれたと言っているようですが、何だって偶然なんです!生まれも才能も出会いだって!だけどその偶然は無意味じゃありません!貴方にとっては無意味であっても他の人には意味があるものかもしれないじゃないですか!」

一方的にまくし立てていたら段々目頭が熱くなってきて視界が滲んだ。
悲しい。不安。怖い。帰りたい。
ネガティブな感情に押し潰されてしまいそう。
今捜している人と一緒にいた時を思い出す。
だから私はなるべくその感情を見ないようにしようと彼に関わった。関わらなければ任務に支障が出てしまう。
苦手なのは変わらなかったけど、ネガティブな感情に押し潰されそうになる事はなくなった。

「意味等見出だせはしない。結果として何も残せなければ意味等ない」
「そんなこと……」
「だがそれは私の考え。貴様は見出だせ。例え結果として残らなくても」

僅かにこちらに顔を向けてくる。
恐怖も威圧感も残っているのに私は押し潰されなくなった。
そして先程感じた違和感に辿りつく。

「刃に貫かれる前に行くがいい」

どこへと聞く前にハクメンは走り去ってしまった。
もうあの背中すら見えない。
先程見た景色は士官学校の廊下。そこを歩く英雄。
その背中は少佐と重なっていた。

「キサラギ少佐……」

呟いても過去の“キサラギ先輩”も現在の“キサラギ少佐”も振り返ってはくれない。

私は刃に貫かれるのだろうか。
あの氷の刃で。


H21.10.25

私は刃に貫かれるのだろうか
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