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「随分と落ち着かないようだな」
「え?いえ!落ち着いてますよ!全然、問題なく、落ち着いてます」

いつものように執務室で書類の整理をしていた。
いつも通りにしていたはずなのにキサラギ少佐に指摘されて慌ててしまう。

「……ならいい」

明らかにどうでもよさそうに、書類に顔を戻した。
いつものやりとりに私は平和だなとぼんやり思う。
統制機構に配属されてもう一年。年が代わろうとしている。
このまま何事もなく過ぎればいい、なんて軍にいながら考えてしまうのはいけないだろうか。

「少尉、それが終わったらこれをまとめておけ」
「はい」

机の前に差し出されて受け取る。
何度なく交わされた会話。上官だから当たり前なのかもしれないけど普段の少佐……今まで見ていた先輩とはだいぶ違う話し方と雰囲気に今は慣れてしまっていた。
これが素なのかはわからないけど。

「キサラギ少佐」
「何だ」
「……お茶はいりませんか?」

顔を上げた少佐は訝しげに私を見ていた。
配属直後では言えなかった事。今でも言うのに勇気はいるけど。

「まずいようならいらないからな」
「はい!」

ため息をついて呆れながらも答えてくれる。つい勢いよく返事をしてしまい、一歩下がって軽く礼をした。
書類をまとめるファイルに挟んで、執務室の扉へ向かう。

「……あれ?」

地に足をついている感覚がおかしくなってぐらりと視界も歪んだ。
すぐにその感覚もなくなる。

「突っ立っているなら部屋から出て突っ立っていろ」
「す、すみません」

気のせいだと思い扉を開けた。
この胸騒ぎは気のせいではなかったと本部からの呼び出しにすぐに思い知らされた。 

もうすぐで今年も終わる。来年はどうなっているのか不安もあるけど期待もあった。
なのに、この年はまだ越せないのだと私は知らない。

ノエルとジン
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