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「あー、何で俺こんなところにいるんだ」

ここに来るのに前置きなどあった事がない。
前置きがあったところで来るとは思ってないんだろうから強制的に連れてくるんだろう。

「呼び出したのにいないなんてどこまで勝手なんだよ、ウサギ」

呟いて目の前にある城を見上げた。いつ来てもここは夜だ。
むせ返るぐらい薔薇の香りが充満していて異世界にいるような気分になる。

「まったく、姫様もこんな奴を招くなんてよっぽど暇なのね」
「仕方ないっすよ。下僕だから暇つぶしに使われて当然っす」
「あぁ?」

静寂の中、聳える城という絵になる景色を前に似つかわしくない賑やかな声が背後からした。

「お前らいつもウサギにくっついてる……」

振り返って見覚えのある生物を指さすが名前も知らなければ一体こいつらが何なのかわからない。

「嫌だわ、固まっちゃって」
「……豚?」
「ひ、ひどいっす!」

いや、お前さっき俺の事下僕とか言ってたから酷いのはお前もだろうとツッコミたいがやめておく。
いつもこいつらを従えているあいつが出てこないんじゃ用はないけど暇つぶしに呼び出した可能性が高い。
無駄話などしていないで帰る手段を探す事にする。

「何か探しているのかしら?」
「姫様がいくら探しても自力では帰れないって言ってたっす!」
「はぁ?じゃあ、どうやったら帰れるんだよ」
「さあ?姫様次第だからわからないわよ」

あの見た目は無害そうな幼女のくせに中身はサディスティックな女めと心の中で罵る。どこで聞いてるかわからないからな。
仕方なくその場に座りこんだ。

「なら飯ぐらい出せっつーんだよ。数日まともに食ってないんだからよ」
「姫様を楽しませたらご褒美をくれるっす!」

嬉しそうに言う赤い生物。どうやったらあのサディスティックなウサギを楽しませて、そんな嬉しがるご褒美が貰えるんだ?

「そんな事言って最近姫様に会えなかったから淋しいんじゃないの〜?」
「黙れ、カマ」
「駄目っす!姐御は姐御なんすから!」

何で俺はこんなところで変な生物2匹とこんな会話してるんだか。
ウサギは出てきやしねぇし。

「せっかく誘導してあげてるのに無下にするなんて後悔するんだから」
「は?」
「姫様に会いたいんじゃないんすか?」
「誰が?」

と聞いたところでここには俺しかいない。

「むしろ呼び出したのはあいつなんだからあいつが会いたかったとかなんじゃねぇの?」

からかうように言うと2匹が表情を強張らせた。
そうだ、俺はさっきウサギが聞いてるかもしれないと思ったはず。

その後、ウサギの気まぐれで食事にはありつけたがまともな食事ではなかった事と食事する様子をレイチェルが楽しそうに見ていた事だけ記憶に残った。

ラグナとギィとナゴ
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