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「随分と必死なようですねぇ」

少し後ろを歩く同行者がどこか楽しそうに呟いた。
私は歩みを止めて振り返る。何の気なしに言っただけかもしれない。
でも何かが引っ掛かり、私は立ち止まっていた。

「任務中なんですから当然です」
「いやいや、お気に障ったのならすみません。しかし支部に近づくほどに歩みが速くなってるものですから」

言われても自覚ができなかった。
嫌な胸騒ぎがするのは確かだった。あんなキサラギ少佐を見たあとでは。ラグナと嬉しそうに呟いて笑い出した少佐。
それが私の見た最後の少佐だった。

「そんなに心配ですか、キサラギ少佐が」
「上官なんですから当然です」
「当然ねぇ」

細められた目は蛇を彷彿とさせて一瞬同一人物かと疑ってしまった。
すぐに帽子を目深にかぶり、目を覆うと整え直して先程までの穏やかな瞳が見えた。

「これは聞き流していただいて構いません。貴女は少し見せすぎだ」
「見せすぎ?」
「いつ何時誰に見られてるかわかりません。貴女の役割を考えれば、弱点は見せてはいけませんよ」

私の弱点。
ベルヴェルクがなければ戦闘もできないし、平静を保つ事もできないだろう。失う事を考えただけで不安定になる。
でも今日会ったばかりの人がそんな事がわかるのだろうか。

「気にしないで下さい」
「そんなふうに言われたら気になります」

にっこりと笑うとハザマ大尉は私の肩を掴み、進行方向に向き直らせ押してくる。

「もう夜になってしまいますから急ぎましょう」

そうだ。ラグナ・ザ・ブラッドエッジは夜に行動する事が多い。ラグナを追ってきたキサラギ少佐もそれがわかって支部に向かうだろう。
ハザマ大尉はラグナにある程度傷を負わされたほうが楽だとは言っていたけど手遅れになっては遅い。

「行きましょう」

私は押す手から逃れるように足を踏み出した。

「……人と関わるのを恐れている奴は関わった人間を大事にするよな、きっと」

呟かれた声など聞こえなかった。

ノエルとハザマ
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