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薔薇庭園で一人お茶の時間を楽しむ。
向かいには私しかいないのに椅子が置かれていた。
「毎回違う菓子なんて凝ってるな。ていうかヴァルケンハインが作ってるんだよな……」
「味がわかるなんて意外ね」
「誰のせいでわかるようになったと思ってるんだよ」
手にした焼き菓子を一口で食べてしまう。味がわかると言いながら食べ方には品がない。
「文句を言いながら食べるのね」
「そりゃあ出されたもんだし茶会に参加しないと帰してもらえないからな」
空間転移で無理矢理連れて来られたと言いたげな態度には何も言わずに目を閉じカップに口をつける。
程よい甘みと温かさが口を満たす。
「紅茶の味もわかるようになればいいわね」
「馬鹿にしてるだろ。この分だといつかわかりそうな気がしてくるけどな」
「あら、私が招かなければそうはならないわよ?もっとも、貴方にわかるような舌があるのか怪しいけれど」
「もう呼ばないのかよ」
俯き加減でいつものように会話をしていたつもりがラグナの言葉で続かなくなった。
いつもなら馬鹿にするなと憤慨するものなのにいつもらしくない真剣な声音にカップを置いた。
「嫌々お茶会に参加してるのでしょう?私もずっと嫌な事に付き合わせるつもりはないわ」
「……そういう意味じゃねぇ」
小さく呟いて頭を掻き出す。息を吐いて視線を逸らして口を開いた。
「嫌々なわけじゃねぇ。だから……」
言いにくそうにしながら言葉は途切れる。
一瞬何を言おうとしてるのか不明で首を傾げそうになったところで予想ができた。
私が言うことはないこと。彼も言いにくいこと。
「ラグナ、今日のお茶会は終わりよ」
「は?てっ!」
椅子から立ち上がりお茶会の終了宣言をすると茶器や菓子だけではなく椅子とテーブルも消えた。
座ったままだったラグナはそのまま地面に尻餅をつく。
「貴方にこれを渡しておくわ」
「何だよ」
白い封筒をラグナに差し出すと立ち上がりながら受け取った。
「中は白紙よ。でもそれがこのお茶会の招待状になるからなくさないことね」
「招待状?ちょ、おい待て、レイチェル!」
空間転移の気配に気づくも抗えずにラグナは消えた。
空間転移で生じた風で薔薇の花びらが舞い、佇みしばらく眺めた。
カップを置き、空席を見つめる。
彼とのお茶会はしばしの間この空間が全てなのだという幻想をもたらした。
ただ紅茶を楽しむ。そんな時間が好きだった。
でもそれを口にすることはない。私が言えないこと。
久しくお茶会をしていない。
「……招待状はまだ持っているかしら」
呟いてカップに口をつけた。
H25.10.12
レイチェルとラグナ
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