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早く、早く、二人を探し出さないと。
説得すればまだ戻れるかもしれない。
逸る気持ちとは裏腹に身体に限界がきて足が止まってしまった。

「おやおや、休憩ですか?ツバキ中尉」

息を整えるため道の脇に寄っていると聞きたくない声が聞こえた。

「どうしたんですか?まるで恐怖の形相ですよ」

振り返ると黒い影が私を嘲笑うように佇んでいた。

「……申し訳ありません。すぐに任務に戻ります」
「いえ、いいですよ。体力がない中あの二人と遭遇したら貴女、殺されてしまいますから」
「っ……」

彼から下されたジン兄様とノエルの暗殺命令。
殺し合う事が前提の物言いに反論したくなるも抑えた。命令には背けない。でも私に二人を殺す事なんてできないし、二人が私を殺すとも思えない。思いたくない。
それを見透かすように言うこの男に怒りを覚えていた。

「失礼。ですがあの二人の方が実戦経験もありますし、それに……」
「何ですか?」

聞き返すのを見越したように言葉が途切れ苛立つ。

「貴女には覚悟がない。甘ったれた感情で止めたい止めたいのたまうだけ」
「それは、貴方には関係ありませんっ。任務を遂行すれば問題はないはずです」
「じゃあ殺せるのかよ」

普段は細められた瞳が開き私を捉える。

“どうしたんですか?まるで恐怖の形相ですよ”

先程の言葉が過る。一体何を恐れているのか。暗殺任務が遂行できないと見透かされること?
違う。私自身にもわからなずただこの男が怖い。なのに怒りを覚えている。

「命令に背けばどうなるかわかっています。未熟とはいえヤヨイ家の者。帝には逆らえません」
「そうですか。失礼しました、ツバキ中尉」

再び瞳は細められ笑う。声音は柔らかいのに穏やかさを感じない。

「では任務に戻ります」

向かい合ったまま足を踏み出しすれ違うと走り出した。
自分からあの男に背を向けたくはなかった。


H25.10.13

ツバキとハザマ
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