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「いい人〜お腹空いたニャス〜」
「おい、地面に這うな」
森の中、力尽きたようにタオカカは地面に突っ伏した。
お腹が空いたと鳴く様を見てズボンのポケットを探る。
「何かあったニャス!?」
「元気じゃねぇか」
飛び上がり迫られ後ずさる。
「ねぇよ」
「でもいい人ちょっと反応したニャス。手出すニャス」
「……お前よく見てるな」
「早くするニャス!」
飛びかからん勢いになってきて両手を振り上げるとタオカカは飛び退いた。
「何か探してくるから待ってろ」
「了解ニャス!」
急かす声を聞きながら足を進ませた。
もう一度ポケットに手を入れてみると微かに紙の音がした。
取り出して見つめる。
『貴方にこれを渡しておくわ』
そう言われて渡された白い封筒。中には何も書かれていない紙が一枚だけ入っていた。
「何をそんなにじっと見つめてるのかしら」
声が響いて顔を上げると空間が歪み見慣れた姿が現れた。
「あら、まだ持っていたのね」
「てめぇが持ってろって言ったんだろ」
「でも律儀に持ってるとは思わなかったわ」
いつものように言い返しかけると間の空間が歪みテーブルと椅子が現れた。森の中では不釣り合いにも見える光景が一瞬にして出来上がる。
「何だよ、これは」
「招待状を持っていたのだからお茶会に決まってるでしょう?」
「なんだよそりゃあ」
そう言いながらもレイチェルが席につくといつものように自然に席についていた。
何回過ごしても自分には似合わないと思うのに嫌ではない。
「もうすぐね」
レイチェル自ら注いでカップをこちらに差し出した。
受け取って一口飲む。甘くはない。でも温かい。
イカルガまでもう少しで到着する。カグツチの時のように到着すれば事態はあっという間に変わるだろう。イカルガを出る時次はどこを目指すのか。それともイカルガから出ずに終わるのか。
「ラグナ」
「な、なんだよ」
思考を遮るように強く呼ばれ顔を上げる。言い方とは違いレイチェルの表情は笑みも不満も浮かべていない。
「次は貴方が食べたいお茶菓子を用意してあげるわ」
「紅茶に合う菓子なんて知らねぇよ」
「ノエルにでも聞きなさい。あの子そういうの好きみたいだから。イカルガに行けば会う事もあるでしょう」
「会ったら紅茶に合う菓子聞けって緊張感なさすぎるだろ」
レイチェルは瞼を伏せて何も言わずに紅茶を飲む。
まだカップに残る紅茶を見つめ、飲み干した。
「どんな菓子でも用意しろよ」
「誰に言ってるのかしら」
笑みを浮かべるレイチェルを見て少し安心した。
『特別に持っていっていいわ』
言われて菓子をいくつか持たされた。
タオカカも少しは腹が満たされるだろう。
諦めていたら勝てない。到着する前から考えてしまっていたら全力なんて出せるわけがない。
「よしっ」
ズボンのポケットを叩き中の存在を感じなから走り出した。
H25.10.19
ラグナとレイチェル+タオカカ
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