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戦う意義があるかと問われればそんなものはないと答えるまでもなく斬り伏せるだろう。
なぜ自分がこんな場所にいるのか、キサラギなどという名をつけることになったかなど興味もない。
ただぼんやりと眺めているだけ。冷たい氷の膜が視界をぼやけさせる。
兄さんだけが僕の全てだった。僕に生を感じさせていたはずだった。
「……誰も来なかったか」
脇道の物陰に身を隠すように仮眠をとっていた。
イカルガに到着し獣兵衛とは別れた。互いにやる事もあったし二人でいては誘き寄せられるものも誘き寄せられない。
隙を見せれば誰かが引っ掛かるかと思ったがそう甘くはないようだ。
「泳がされているのかそれとも……」
呟きながら身を起こす。立ち上がり気配を探っても何も感じない。
いつまでもそうしてるわけにも行かず足を踏み出した。
「少佐!」
ノックのあと執務室にヴァーミリオン少尉が慌てた様子で入ってきた。
予想はついて特に取り合わずに雑務を続ける。
「あのっ、書類のミスをしてしまい申し訳ありません!」
頭を下げられる。
誰の策略か今は部下となっているノエル・ヴァーミリオン。術式適性が異常に高いというだけの配属。ならばもっと適切な部署もあっただろうしノエル・ヴァーミリオンも好き好んできたわけではないだろう。士官学校にさえ向いてるとは思えない。大方家のためだというのはわかる。
わかったところで同情もしないが。
「謝罪を述べる暇があるなら役に立て」
いつだか役立たずと口にした事がある。役に立たないだけでなく涙を浮かべる。意思を持ってここにいるなら目的があるのに為そうとしない様を見てるのが苛立った。
「すみません。すぐに戻ります。少佐がやって下さったんですよね?ありがとうございます」
顔を上げて少し声は小さくなりながらもはっきりと告げた。
僕に視線を向けられても背ける事なく真っ直ぐ佇む。
「それでは失礼します!」
もう一度頭を下げて靴音を響かせて退出していった。
「……できるならちゃんとやれ」
相手がいないとわかっていながら口は動いていた。
気配を感じて足を止める。
「できるなら最初からちゃんとやれ」
振り返ると見知った顔がいた。この距離まで気配を感じさせないとは少しはできるようになったのか、僕が認識しなかっただけか。
「キサラギ……先輩」
「武器をとれ、ノエル・ヴァーミリオン」
言いながらユキアネサを構える。
「キサラギ先輩とは戦いたくありません」
「この地で合間見えたならば戦うのが道理だろう。それに僕は貴様に刃を向ける」
殺気を感じたのか腰につけているホルスターから銃を取り出した。
「どうして戦うんですか?」
「理由などない。貴様の存在が苛立つからだ」
微かに後退りながらもノエル・ヴァーミリオンに逃げる意思はないようで二丁拳銃を構えた。
戦う意義などない。だが今は動かなければ事態は変わらない。目的はある。だから僕は為すために動くのみ。
この地で逢ったのも何かの縁だろう。
「わかりました。秩序の力、直に感じさせて下さい!」
「いいだろう。来い、ノエル・ヴァーミリオン!」
開幕の言葉を口にし互いに地を蹴り動き出した。
H25.10.21
ジンとノエル
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