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できれば見たくはないが見てもまた出会い、共にいるのだろう。
安静にせざるをえず、ベッドで過ごす日々。何を思ったかヴァーミリオン少尉は童話を読み聞かせだした。
「一度読んだことがあるものでも年月を経て読み出すとまた違った感じがしますね」
ベッド脇に椅子を置き座っていた。読み終わると本を閉じる。
「ここにはそんなものしかないのか」
「童話楽しくないですか?」
「……どう楽しいのか述べてみろ」
「夢があるじゃないですか!」
両手で本を突き出される。はたきおとしてやりたかったが痛む動作をする理由もなくやめた。
「大方王子が迎えに来てくれるだとかそんな類いだろう」
「それもありますけど……」
手を降ろし言いにくそうに俯き加減に呟いた。
「……色んな世界で色んな人物になれますから」
連日童話など読み聞かせられていたせいか変な夢を見てしまった。最初の方に聞かされたものだったか。
『狼は怖いですが話し合いで解決できたりしないでしょうか』
その言葉に甘いなと返した記憶がある。物語の意図があり、この物語では狼は排除されるしかない。そういう物語だからだ。
「あんな事を聞いたからか」
夢の中の狼は排除されていなかった。我ながら馬鹿げている。
扉が開きヴァーミリオン少尉はなぜか僕の顔を見るなり固まった。本を胸に抱き締め気のせいか顔が少し赤い気もする。
「ヴァー」
「おっ、おはようございます!」
今は昼過ぎだ仕事ではあるまいしと言いかけやめた。
その日はちらちらと見られながらも視線を逸らされた。そして翌日も変な夢を見た。
「何だあの夢は」
思わず独り言が漏れる。狼の次はアリスだった。夢とはいえスカートをなぜ穿かなければいけないのか。読み聞かせられるにしても童話以外にしろというべきか。自分が童話の夢を見るなどという事実が耐えられない。
扉が開くとヴァーミリオン少尉が部屋に入り顔を見るなり頭を押さえて本が落ちた。
見覚えのある動作。そこに長い耳は生えていない。
「捕まえるんじゃないのか」
「はい!へ?」
頭を押さえたまま返事をし首を傾げる。
「え、何でキサラギ少佐が?え?じゃ、じゃあ昨日のも……」
同じ夢を見ているなんて馬鹿げている。そんなことがあるわけはない。ヴァーミリオン少尉の反応を見れば信じるしかなく、見てしまっているならば仕方ない。
ヴァーミリオン少尉は本を拾いベッド脇の椅子に座った。
「色んな世界で色んな人物になった気分はどうだ」
「う……すみません。楽しい、ですけど」
巻き込んだと思ったのだろう。言葉は途切れながら呟き本の表紙を見つめながら指先で撫でた。
「私は私、なんですよね」
「馬鹿か」
「馬鹿ですね」
当然の事を確かめるように言われ返すと顔を上げて苦笑した。
「どんな世界、役になっても自分で決めます」
返答はせずに見ていると気恥ずかしげに笑った。
「でもどちらも少佐と一緒の夢でよかったです」
「どういう意味だ」
「少佐の色んな姿が見れて!スカート似合ってました」
負傷していなければ頭を掴んでいたことだろう。少尉は嬉しそうに本を開いた。
「今日はシンデレラです!また夢を見たらどんな配役になるんでしょう」
そう言いながら読み出す。聞きながら窓に顔を向ける。できれば見たくはないが見てもまた出会い、共にいるのだろう。
H28.9.30
ジンノエ
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