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頬を伝う涙は跡にはならずに消えるだろう。


「大丈夫だよ、ツバキ」
「駄目よ、ちゃんと消毒しておかないと」

膝に怪我をしたノエルを手当てする。消毒すると強ばりながら、それを見ながら消毒を続けた。

「ツバキは優しいけど、厳しいよね」
「……きつい?」

怖がらせているかと見上げるとノエルは首を横に振った。

「ううん。自分にも人にも厳しいけどそれは人のためだってわかるから。ツバキは優しいよ」
「ありがとう」

そう言われると恥ずかしさがあるものの誤解されずに伝わっていることが嬉しかった。押し付けてはいけない。でもつい言ったり、やってしまうことがある。

「私もしっかりしなきゃ」
「ノエルはしっかりしてるわよ?」
「ツバキだけだよそう言ってくれるの……」
「まずはあまり転ばないようにしないといけないわね」

消毒が終わり絆創膏を貼り立ち上がった。

「足元に気を付ける!」
「前方にもね。でも」

見上げてくるノエルの頬に触れる。じっと私を見つめ続きを待っていてくれる瞳に笑む。

「怪我をしたら私のところに来て手当てをさせてね」
「ありがとう、ツバキ」

失敗を恐れないでと伝えたかった。けれどそれだけではなく私の元へ来てほしかったのかもしれない。


痛みが麻痺しだしたのかぼんやりとしてくる。痛覚は麻痺していても立っているだけでやっとで今にも膝をついてしまいそうだった。

「役立たずだなぁゴミ中尉」

フードの男が嘲笑い伏したノエルの背を踏んだ。傷だらけで私が到着した時には気を失っていた。

「その足を、退けなさい」

力が入らず張れない声を男が笑う。

「退けたところでどうする?お前がこいつを探してたのはその御大層な大義で断罪するためだろ?」

男の言葉に思考にノイズがかかる。ノエルの姿がμ12の姿なのか、私の知るノエルなのかわからなくなる。世界をこんなにしたのはノエルのせい。だから断罪しなければ。世界を滅ぼすのは悪。

「違う……違う……」

自分の思考を振り払うように首を振ると麻痺していたはずの痛みを感じる。けれどノエルの方が酷い。

「誰がこんな風にしたんだろうなぁ。その傷は誰につけられた?この傷は誰がつけた?」

男は足を退け屈むと伏せていたノエルの体を仰向けにさせた。顔にも傷を負って早く手当てをしなければ。

「誰、が……」

頭を抑える。違うと否定しながらあり得た、あり得る事象だと理解する。

「わかったか!正義だと傷つけ、その正義で何もできていない!役立たずのゴミが!」

立ち上がり傷を抉るような言葉に顔が歪みそうになる。この男にそんな顔を見せてはいけない。

「有効活用してやることに感謝するんだな!」

笑い声が頭に響く。目覚めないノエルを見つめ崩れかけた体を立て直す。

「……まだ終わってない」

呟きイザヨイ兵装を纏う。ノイズも麻痺する痛みもぼやけた記憶も考えない。目の前の悪と守りたいものを考え剣を手に取った。
このあと守りたいものを斬ることになろうとも駆け出す。それが私の役目であり大義。できたなら貴女の戻る場所でいたかった。

「断罪します!」

頬を伝う涙は跡にはならずに消えるだろう。


H28.9.30

ツバノエ+テルミ
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