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眠れないウサギを寝かせてやらなければ。
今日の修行が終わり寝ようとしてもなかなか寝付けずに川へと向かった。軽い散歩気分で夜風が鳴らす木々の音の中を歩いていく。
「夜の散歩かしら?」
木々の音の中異質な音が背後からしたかと思い振り返るとレイチェルが現れていた。
「関係ねぇだろ」
前を向き歩みを再開するとレイチェルも後ろをついてくるのがわかった。
「眠れないなら童話でも読み聞かせてあげましょうか」
「童話はオレが読み聞かせる側だ」
拳を握り前を見据える。戻る場所はもうない。読み聞かせた二人もそばにはいない。
「そうだったわね」
沈黙するかと思えば返され少し驚く。立ち止まり俯く。風は止み静寂に満ちていた。まるで今のオレとレイチェルの空気を読み取るように。らしくないと空を見上げた。
「眠れないウサギにオレが読み聞かせてやってもいいけどな!」
「ラグナの読み聞かせでは眠れなさそうね」
空気が変わり歩き出す。レイチェルもそのまま後ろをついてきた。
「そもそもお前童話なんて読むのか?」
「私が童話を読むのはおかしいような言い方ね」
「小難しいのは読んでそうだけどな」
「童話も奥が深いものよ」
川が見え辿り着くと立ち止まった。レイチェルは隣に佇み先の暗闇を見つめていた。
「でもお姫様になりたいなんて思わないだろ」
「そうね。私は傍観者だから。たまに手助けはしてあげたくなるけれど」
「意外だな」
「貴方が私をどう見ているかよくわかるわね」
顔を向けられ雲行きが怪しくなりだし視線から逃れるように屈んだ。
「オレも物語上の何かになるよりはオレで何かしたくはなるかな。話変わっちまうけどな」
指先で水面を弾いた。水は冷たく心地良い。
「貴方は貴方の物語を歩めばいいのよ」
見上げるとレイチェルが笑みを浮かべていた気がするがすぐに背けられよくわからなかった。
立ち上がり水のついた指をレイチェルの顔の目掛けて弾くと驚いた顔を向けられオレは来た道を走り出した。
「ラグナ、待ちなさい!」
電撃が落とされかねずに当てられないよう駆けていく。またウサギは来るだろう。そしたら読み聞かせてやってもいい。何を読もうかなんてまた思えたことが不思議だった。
「……変な夢見たな」
誰かと話している夢。朧気で内容は覚えていない。自分が誰かもわからず誰のことも覚えていないのに夢を見ることに笑ってしまう。
「行くか」
一休みしていた体を起こし立ち上がり歩き出した。
眠れないウサギを寝かせてやらなければ。だからオレは立ち止まらずに向かうしかない。そこに何が待ち受けていてもオレの物語をウサギは見ているのだろうから。
H28.10.2
ラグレイ
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