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自室のパソコンを操作していて明日がバレンタインデーだと気がついた。

「もう12時過ぎたから今日かぁ……」

ちらりと画面の端に表示されている時刻を見て呟く。
呟いてから気がついた。

「少佐の誕生日?」

“何も用意してない!?”と心の中で叫びながら椅子から勢いよく立つ。
でもすぐに座った。

「あげていいのかわからない……」

士官学校から知っている人だし今は上官。義務的な意味であげても不自然ではない。
でもあげた時にどんな反応をされるかが怖い。

「いつまで私がいられるかわからないけどもしかしたら長くなるかもしれないし、できるならずっといたいし……」

ヴァーミリオン家のために、私を引き取ってくれたお父さんやお母さんのためにいつどんな任務をくだされるかわからない“秘書官”の位置を受け入れた。
適性以外で秀でたものがない私にはこれぐらいしかできないから。
苦手なキサラギ先輩の秘書官という位置につくのは怖かった。
でも私が怖がってばかりでは失礼だ。上官としては申し分のない人なのだから。だから私は部下としてしっかりしたい。
そのためにはできるだけこの苦手意識をなくせなくても薄くしたい。

「でも何をあげたらいいんだろう」

あげるならば誕生日だけどバレンタインなのだからバレンタインとしてもあげたい。
バレンタインは気持ちを伝えるものらしいけど、私は少佐に何を伝えたい?
少しずつ進もう。
喜んでもらえるとは思っていない。
私の自己満足でも私は進みたいのだから。

「泣く前に押し付けて逃げよう」

でも弱気は捨てられないみたいだった。


「これは何だ、少尉」
「花瓶ですね」

少佐が執務室を抜けている間に用意した花瓶と花。
部屋に戻ってきた少佐が机に近づき気付いてそれ指さす。
心の内はひやひやしながらも平静を装って答えた。
結局食べ物にしようか小物にしようか考えて、花にした。
前から殺風景だなと思っていた執務室。少しぐらい綺麗なものや可愛いものがあっていいと思っていた。

「高かったんじゃないか」
「そうなんですよ。私のお給料だとこれが精一杯で……あ」

花を凝視して言われた言葉に素直に返してしまった。
“さりげなく飾って隠しておくつもりだったのに!”と心の中で叫ぶ。
私だとばれなければ平気かもしれないと思ったけど、ばればれだった。
誰が訪れたかわかるし、無断で入るのも難しい。
私の計画は無意味だったのだ。

「これは何のつもりだ」
「いえ、あの、部屋が淋しかったのでお部屋が明るくなるかなと」
「書類の作業をするのに明るさが必要か」
「必要、ないですね……でも!気持ちが明るくなれば作業率もアップ!」
「するのか、お前が」
「……自信がないです」

駄目駄目だった。
少佐は呆れた様子で椅子に座った。
私は花瓶を下げるべきか迷って床と花瓶を交互に見る。

「水の入れ替えは怠るな」
「え?」

顔を少佐に向けると少佐はすでに書類に目を通しはじめていた。

「邪魔にもならないから置くぐらいいいだろう」
「はい!」

誕生日もバレンタインも少佐に伝えられなかったけど、プレゼントはできた。
いつか私が少佐に伝えたい事が私の中でわかったら伝えよう。
少しずつ進んでいけば、先はあるのだから。

今は心の中で呟いておく。
“誕生日おめでとうございます、キサラギ少佐”


H22.2.14

少しずつ進んでいけば、先はあるのだから。
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