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あいつとの待ち合わせ場所へ向かう足は重い。数ヶ月ぶりに会う。なのに重い。
俺はあいつを傷つけた。

『ごめんね、トーマ。私、トーマに負担かけたくなか……ったのに』

俯いて泣かないように堪えていた。でも声は震えていて、傷つけてしまったと気がついた。
後悔した。苛立っていたのをただやつあたりするようにあたっただけ。

『あの子、可愛いけどトーマが近くにいたんじゃ彼氏できないだろ』
『いいの。あいつに変な男が寄り付かないようにしてるんだから』
『でもそれってあの子は望んでるのか?』

友人とのそんな会話のあとに会わなければよかった。
ずっとそばにいて、あいつもそれを受け入れてくれてると思ってた。甘えていた。

『大学はここから離れたところも考えたんだ』

考えた事は本当だった。でもそれを言った事はなかった。離れる事なんてできないのだから。
でもつい口にしてしまった言葉にあいつは問いかけてきた。

『いつまでも見ていられないから』

この言葉を負担だと取ったらしかった。
違うと否定したくても傷つけたのが自分である以上これ以上触れてはいけないと停止がかかる。
そのままあいつは別れを告げて去った。きっと別れたあと泣いただろう。
傷つけたのは俺だ。いっそ怒ってくれたらよかったのにと自分勝手な事を考える。
それから数ヶ月。暦は夏でも気温は低い夏を過ごしていた時に久しぶりにあいつからメールがきた。

会いたいと記されたメールには拒否する事はできずにこうして待ち合わせ場所に向かっている。
あいつの住んでいるアパートの前。時間的にはまだいないはず。

「あれ……?」

考えるよりも早く駆け出していた。
人が倒れていた。
倒れているのはあいつだった。


「オレ達の事は覚えてんの?」
「わからない。様子がおかしいのは一目瞭然だけど態度が……」
「なに?」

数日後。
あいつは検査のために入院した。
シンに連絡をすると様子を見に病院へやってきた。
記憶があやふやになっている可能性が高い事を告げると冷静になろうとしたのか隣に座ってきた。
入院病棟のデイルーム。今は俺達以外誰もいない。

「取り繕うみたいなんだ。知らないなら知らないでいいんだけど、忘れてる事を隠そうとしてるっていうか」
「それ追及したの?」
「してない。何か責めるみたいになって混乱させたらいけないと思って」

シンはため息を吐いて前屈みになった。横目で見つつも俺も視線は床に向けていた。

「……トーマさ、あいつと会った?」
「会ったよ?」
「いや、記憶あやふやになる前に」

シンがこちらに顔を向けて真っ直ぐ射抜くように見てくる。たまに見透かされてるんじゃないかと思うがシンは俺はわかりづらいと言う。

「最後に会ったのは春かな」
「あっそ」
「何その態度」

シンは返答はせずに立ち上がりあいつの病室の方向へ歩いて行った。
忘れていてくれて助かった、なんて思ってはいけない。
次会った時に俺が気にしないように無理させてしまったらと考えると怖かった。
どうしたらいいのか八方塞がりだ。
あいつの事となると何もできない。

「お前のためなら何でもできるのに」

呟いてシンのあとを追って病室へ向かった。


H24.4.2


【君を閉じ込める場所5題:鳥籠】
配布元:リコリスの花束を

鳥籠:1
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