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それから数日。
あいつとシンは俺の家に来ていた。
アルバムに見入るあいつの隙を見てシンが話しかけてくる。

「どういう風の吹き回し?」
「何が?」
「これ言ったら怒るかもしれないけど、トーマ、あいつに記憶戻してほしそうじゃなかったから」

否定も肯定もしない。でも否定しない時点で肯定だとシンにはわかっているだろう。
幼少期からの写真を珍しそうに見ていくあいつを見つめる。

「あの日、あいつさ……話があるって言ってたんだ」

あいつには聞こえないようにシンには聞こえる程度に呟く。
シンは無言で聞いている。

「それなら俺はあいつの話を聞かなきゃいけない」
「何それ、あいつが望むからって事?そんなのあいつが喜ぶかよ」

ずっと一緒にいても俺とシンは似ていなかった。あいつを守りたいというのは一致しても方法が異なる。
俺はあいつを守るためなら何でもするがあいつに対しては受け身だ。
大事な事を言わないし、聞けない。この関係を壊したくない。

「あいつの事考えるのもわかるけどもう少し自分の気持ち出せ、馬鹿」
「ばっ……!?」

シンの口の悪さは今に始まった話ではなかったが、まるでシンが相談相手のようで兄ポジションを名乗ってきた自分としては複雑だった。
シンにはどうしたらいいかがわかっている。俺にもわかっているが行動に移せない。それを見透かされているようだった。


後日。今日はあいつのバイトが終わるのが夕方のはずと迎えに行った。
遅く終わる時は俺かシンのどちらかが迎えに行っていたが今日は暗くもない。でも会いに行きたかった。

「あの、ちょっといいかな」

道端で突然声をかけられ振り返ると長髪の男性がいた。
見覚えはない。

「何ですか?」
「君は今どこに向かっているの?」
「……知らない人に教える必要がないんですが」

どう考えても不審人物で態度を変える。それがわかったのか男性はあたふたとした様子で不審人物ではないと訴えだした。

「用件は何ですか?」
「今から行くのは冥土の羊?」

不審人物に気味の悪さが追加されてポケットに入っている携帯に触れる。

「違う!違うよ!?俺、冥土の羊にたまに行くから君の事見た事あるんだ」
「そう、ですか」

確かに少し前まで冥土の羊に働いていた。
それでも不審人物には変わりなく、携帯を出して見せるように持つ。

「あの子の事守ってほしいんだ」
「あの子?」
「君とよく話してた……少なくとも今月いっぱいはそばにいてあげて」
「何で貴方がそんな事言うんですか?」

通報してもよかった。だけどしなかったのは彼の表情が心配しているものだとわかったからだ。

「この世界のあの子の支えは君みたいだからそばにいてあげて」

ふっと笑って後方に視線が向けられた。その視線に導かれるように振り返るとあいつが駆け寄ってきていた。

「トーマ」

徐々に速度を落としても危ないから走らないように言う。
目の前に来る頃には歩く速度になっていた。

「トーマ、こんなところでどうしたの?」

俺から近寄らなかったのは会話の途中だったからだ。
話をしていたと告げようと振り返ると男性はいなくなっていた。
辺りを見てもどこにも姿はない。

「トーマ?」
「何でもないよ。お前に会いに行く途中だったんだ」

そう言ってあいつの住むアパートまで歩きだした。


「ありがとう、トーマ」

アパートの前まで来た。あの日の待ち合わせ場所。

「お前の事好きなんだ」

自然と出たようで出るまでに時間がかかってしまった。
このままでいても終わりは来る。幼なじみは変わらなくてもこの気持ちに終わりを見つけなくてはいけなくなる。
なら、そばにいて守るために。けじめをつけたかった。
鳥はいなくても鳥籠は置いておけると言ってくれたから。
創った鳥籠は壊れない。俺達の関係が壊れるわけじゃない。

「お前は覚えていないかもしれないけど、数ヶ月前に最後に会った時にお前を傷つけた。ごめん。好きで、言えなくて、八つ当たりみたいな言い方して傷つけて」

もっと早く言わなければいけなかった。
視線があって何度か瞬きをする瞳を見つめ続ける。

「……トーマ」

近い距離なのに少しふらつきながら両手で俺に触れようと歩み寄ってくる。
その両手を取った。

「私もずっと言いたかったの。でもトーマに迷惑かけてるなら気持ちを伝えてけじめをつけようと思っての」
「お前っ……記憶が」
「トーマ、好き」

あの日に伝えようとしていた事を言われる。
微笑む彼女を見るのは久しぶりに感じて泣きそうになった。

「わっ……と」

突然身体の力が抜けて倒れそうになるのを受け止めた。
体調が悪くなったのかと慌てて顔を覗きこむと穏やかな寝息をたてていた。

「寝てる?……よかった」

安心すると抱き上げてアパートの階段に向かった。


「あれ、これ……」
「おかえりなさい、トーマ」
「おかえり、トーマ」

自宅に帰ると幼なじみ二人が出迎えてくれた。
あれから数ヶ月。季節は冬。夏と違い、冬は冬らしい気温で寒かった。
二人が来るのは最近ではよくある。主に夕飯を食べに。

「これどうしたの?」

もういる事にはつっこまずに部屋内にある見慣れない物に近づいて問いかける。

「部屋が少し寂しい気がして買ってきたの」
「給料日に買いに行くのが鳥籠と鍋の材料っておかしすぎ」

鳥籠。
俺の部屋にはあの日に目に入った鳥籠があった。

「え、だってあれ値段少し高くなかった?」
「やっぱり置くならこれがいいなって思って」
「理由聞いてもこれがいいばっかりなんだけどどういう事なの」

シンの呆れた呟きは聞こえていないかのように彼女は嬉しそうに鳥籠に近寄った。

「理由なんてなくてもいいの」
そう言って鳥籠を見つめる。
「トーマ?」
「ありがとう」

あの日彼女がそうしたように鳥籠の扉を開いた。
俺のお礼に不思議そうにしながらも受け入れて頷いてくれる。

「中に何か飾れないかな?」

言いながら扉から中を覗きこむ。

「それじゃあ二人に何か持ってきてもらおうかな」
「俺も?」
「うん、わかった」

何を持ってこようか考えながら鍋の用意に戻る二人。
鳥籠にもう一度視線を向ける。

鳥籠の鍵は開けたまま。出入りも自由。
壊れない鳥籠。思いはいつもこの鳥籠に閉じ込めたまま。
おいでと招けば来てくれる。
鳥籠の主は一人ではない。この鳥籠は一人で創ったものではないのだと気づいたから。


H24.4.3


【君を閉じ込める場所5題:鳥籠】
配布元:リコリスの花束を

鳥籠:GOOD
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