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「ごちそうさまでした」
ウキョウと声が重なる。向かい合わせで座り、間にはクロスの敷かれたトランク。その上にはお皿とコップが置かれていた。
「美味しかったよ。自宅でこんな美味しい朝食が食べられるなんて思わなかった」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。押しきって来ちゃったから」
「そんなことない!来てほしかった!来てほしかったよ!でも朝早くだと俺寝ぼけてるからアイツが出てくる可能性もあるし」
ウキョウは必死にそう言いつつ段々と俯き、立ち上がるとお皿を片付けはじめた。私はコップを持ち、キッチンに向かったウキョウを追った。
『冥土の羊で朝食をとらないときもあるの?』
『あるよ』
『自宅で食べるの?』
『そうだな……コンビニで買ってきておいたりしたやつを食べるかな。食べなくても平気なんだけど仕事がある時はさすがに抜けないし』
『作りに行ってもいい?』
『え?』
何とか来ないように説得するウキョウと何とか行けるよう説得する私のやりとりを数日繰り返して今日を迎えた。
ウキョウが折れてくれた。
「これからどうしようか?買い物に行く?」
流しで蛇口をひねり食器を洗い出しながらウキョウは聞いてきた。
「ウキョウ何か買いたい物ある?」
「特にはないかな」
「じゃあウキョウの家で過ごしたい」
「え!?」
驚いて食器から私に勢いよく顔を向けてくる。予想通りの反応ではあった。
「俺の家か……昼間なら大丈夫、かな」
ウキョウはもう一人のウキョウが出てくる事を心配している。何度大丈夫と言っても大丈夫じゃないと返されてしまう。
「わかった。じゃあ今日は俺の家で過ごそう」
「うん!」
「って言っても俺の家何もないんだよね」
朝食の片付けが終わり、隣り合わせに座った。
「写真見たいな」
「写真?いいよ」
ウキョウは前にあるトランクのクロスを取り、トランクを開けた。
そんな後ろ姿を見つめて違和感を感じる。
「そういえば今日は髪結ってないんだね」
「え?あぁ、アイツがやってなかったみたいで」
自宅を訪ねるとウキョウは髪を一つの三つ編みにしている事が多い。ウキョウの言い方だともう一人のウキョウがやっているようだった。
「私がやってもいい?」
「え、髪を!?そんな朝食まで作ってもらったのに」
「ブラシと留めるものある?」
「……うん」
開けたトランクからウキョウはブラシと髪止めを出し、私はそれを受け取った。
「ウキョウの髪気持ちいい」
「そう?何かそう言われると照れるね」
髪をとって流すように落としていく。さらりとした感触。編むためにある程度手に取ると気持ちいい。
「前に外で写真を撮っていて風が強い日があったんだ。それからよく三つ編みにするようになって」
「うん、今みたいに私が編んだんだよね」
「え?」
編む髪が少し引っ張られてウキョウが私を振り向いたのがわかった。ほどけないように髪を軽く掴む。
「でもあれは……」
「覚えてる、とは違うのかな。体験したことがあるようなないような朧気な記憶なの。でも凄く幸せな光景だった」
前にウキョウと再会した時のあとの出来事。でもウキョウは巻き戻したこの世界ではあえて姿を現さずに8月になり心配になって私に話しかけた。
だから正確には今の私が体験したことではないのかもしれない。
「今みたいにウキョウが話してくれるとそんな朧気な光景が段々はっきりしてくるの」
「本当に?」
「うん、だからもっと聞かせて」
「……うん!」
ウキョウは再び前を向いて、私は髪を編むのを再開した。
ウキョウの話に耳を傾かせ、私も話す。
ウキョウと共有できる今が幸せに感じた。
H24.6.17
【あなたとほのぼの5題・あなたとおしゃべり】
お題配布元:リコリスの花束を
あなたとおしゃべり
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