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1回目。
何も知らない俺はただ彼女の無事を見て世界から消された。

2回目。
彼女が死亡した日まで生き延びようとしたけど駄目だった。
もしかしたら彼女も死んでしまうかもしれない。

3回目。
ニールがこの世界のイレギュラーである俺は、元の世界の彼女が死んだ日までに消されると説明された。
俺が死ねば彼女は生き残るとも。

10回目。
それでも諦めるわけにはいかなかった。何度世界に殺されても彼女の無事を確認したい。
そんな時彼女が死んだ事を知った。


「ニール、どうして彼女は死んだんだ?」
「わからない。でも彼女がいなくなった世界ならウキョウは残れるかもしれない」

残るわけがなかった。ニールは何度も俺が死ぬのを見ているからそう言ってくれたのはわかる。
でもあまりにも理不尽な世界の理に憤りを感じ、彼女を殺したのは俺が来たからかもしれないという罪悪感から飛び降りた。

もう何回目かはわからない。
彼女の周りを観察することで彼女は時に事故で死に、誰かに殺されたということもあったことを知った。
時に安全だと思ってトーマに助けを求めればその世界ではトーマに殺されもしたし、彼女が死ぬ確率が高いパターンの世界だともわかった。

「ウキョウ、もう無理だよ」
「大丈夫だよ…。それに他に方法はない」

その会話をした世界でオレが彼女を殺した。
目の前で血まみれの彼女は人形のようで顔には涙の筋があった。

「もうウキョウは死に耐えられない。だから耐えるために人格が作られたんだ」
「なにそれ?彼女を殺すための人格が俺の中にあるって!?彼女を助けるためにあの日以降に生きる彼女を見たくてここまできたのに……」

もう終わりのない迷路だった。
どの世界でも彼女は俺を知らない。でも彼女が幸せならそれでよかった。


「あの」
「え……あ、なにかな?」

彼女がいないのを確認して久しぶりに冥土の羊で朝食をとった。いつからか食べ物の味がわからなくなっていた。でも食べなければ死んでしまう。だから仕方なく食事をした。
冥土の羊を出た直後に聞き慣れた声に呼び止められ驚いた。
アイツが現れてからできるだけ接触しないようにしてきた。この世界では面識すらないはずだ。

「忘れ物です」
「本当に!?そそっかしいな……ありがとう」

雑誌を差し出され、手に持っていない事に気づいて受けとる。
すると彼女は笑った。その笑顔が懐かしく感じる。

「写真お好きなんですか?」
「う、うん。仕事も兼ねてて」
「写真家さんですか?」
「一応ね」

雑誌が写真を扱う雑誌だったからか彼女は聞いてくる。

「見てみたいです」
「……どうして?」

こんなに会話をしたのは久しぶりで早く離れなければいけないのに会話を続けてしまう。

「優しい写真を撮りそうなかただなって……すみません。変な事言って。たまにお店で見かけてたので」

“ウキョウの撮る写真は優しくて暖かいね”
“そう言われると何か恥ずかしいな……”
“ウキョウの撮る写真好き”

もう時間にすれば俺の感覚だと遠い昔の出来事。でも決して色褪せない。何度死の終わりを迎えても彼女との思い出が本当の終わりに向かえさせないでくれる。

「ありがとう」

笑えていたかはわからない。それだけ彼女に告げて去った。
その足でこの世界からいなくなった。彼女の幸せを願って。


「ウキョウ?」

身体が揺れている。
目をゆっくり開けると見慣れた絨毯が映り寝てしまっていたのだと気づく。

「起こしてごめんね」

彼女が目の前に屈んで覗きこんでくる。その表情は心配そうだった。

「ごめん、寝ちゃって」
「ううん。疲れたみたいだから寝てくれたほうがいいけどうなされてたから起こしたの」
「……ちょっと夢を見てたんだ」
「悪い夢?」

俺は彼女の問いに首を横に振った。
悪夢かもしれない。でもそこに彼女がいるかぎり悪い夢ではなかった。あの出来事があって今こうして彼女といられるから。

「でも泣いてる」
「え、本当?」

彼女の手が顔に近づいて涙の筋を辿るように指先で撫でられる。

「ウキョウ?」
「本当に大丈夫」
「よかった」

笑って告げると彼女も安心したように笑ってくれる。
離れようとする手を掴んで軽く引いた。

「ありがとう」

そう言うと一瞬驚いた表情を見せる彼女。上半身をゆっくり起き上がらせながら彼女の顔に近づくと彼女も近づいてくれた。
すぐに唇に触れる。温かく柔らかい唇が。

死の終わりの先には優しくて暖かい場所。彼女がいて俺がいる世界。


H24.7.3

死の終わりの先
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