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「お前、それわかって言ってるの?」
「え、変な事言ったかな?」
シンの部屋で勉強の邪魔をしないよう隅で雑誌を読んでいた。
夏が終わって秋。何度もこうして部屋を訪れている。
幼なじみではなくなったシンとの関係は何だか気恥ずかしくて避けてしまった時もあった。
今でも恥ずかしさがないとは言えないけどシンのそばにいたい気持ちのほうが強い。
シンに答えあわせをしてと言われて赤ペンを渡されて思い付いた。
『解答数に応じてご褒美があるとやる気出ない?』
そう言うとシンは驚いたような表情で私を見ながら意味がわかってるのかと言われてしまった。
おかしな事を言ったつもりはなかった。だから頷く。
「それはお前がご褒美をくれるの?」
「うん、私ができることなら」
「じゃあ全問正解したら今日泊まっていって」
「えっ!?」
向かい合わせで座り机を挟んでいる分距離はあるのに驚いて身体を後ろにひいてしまう。嫌な気持ちはないのに恥ずかしくて身構えてしまった。
「やっぱりわかってなかった。ご褒美って何言われるかわからないで言うなよ。でもそういう反応されたほうがいい」
シンは自分を意識させるようにキスしてきたりする。
そうして意識しているのがわかると嬉しそうにする。
前よりも恥ずかしくはなくなってもやっぱり恥ずかしい。何もされてないのに恥ずかしいなんて何だか悔しかった。
「いいよ」
「何が?」
「全問正解したら泊まる」
「いや、冗談だし」
「私は本気だよ」
後ろにひいていた身体を前のめりにしてシンを見つめる。
どういう意味なのかはわかってる。シンなら嫌じゃない。ただまだこの関係の距離に慣れていないだけ。幼なじみが長すぎたから。
「無理しなくていい」
「無理してるように見える?」
「うん。それにオレ受験生だから……」
「だから?」
「……そういう事言われると頭に入らなくなる」
シンは照れたのか視線を逸らした。その仕草が可愛くて笑ってしまう。
「シンから言ってきたのに変だよ」
「ご褒美って先に言ったのはそっち。我慢してるんだからあんまり言うな」
顔を遮るように参考書が目の前に差し出された。
答えあわせをする事を思い出して解答と照らし合わせていく。
「とりあえず今日はここまで。全問正解してたらさ……」
答えあわせをしながら相槌をうった。でも私はシンが何を言ったのか聞いていなかった。
「全問正解!シン、凄いね!」
参考書を机に置いて結果を告げるとシンは立ち上がった。
シンをただ見上げるとすぐに歩きだして何かを拾って私の横に来る。
「ご褒美」
「ご褒美?」
「さっきいいって言った」
シンが屈んで近づく。そのまま肩を押されて押し倒されそうになってしまう。
何の事をだかわからずに耐えたけど耐えきれずに床に倒されてしまった。
「シン?」
シンを見上げるとすぐに視界からいなくなってしまった。
「一時間経ったら起こして」
私の横に寝るシン。顔を向けかけて近さに天井を見上げたままにした。
その間にも距離はなくなり、シンの腕が私を抱き寄せるように腰に回る。身体にはいつの間にブランケットが掛けられていた。
「さっきご褒美にお前の横で寝かせてって言った」
耳元で言われた記憶のない言葉。でも抵抗する気もあるはずがなかった。
「うん」
だから頷いた。
「お前本当あったかい」
「シンもあったかいよ」
シンを見ると目を閉じていた。目を閉じていれば恥ずかしさも薄れる気がして顔を向ける。
ずっと一緒にいた幼なじみのはずなのに何だか違う気がしてしまう。寂しいけどそれ以上に今までなかった気持ちが強い。
「見られると眠りにくいんだけど」
「ひゃっ」
突然目があって驚いてしまった。でもすぐに目は閉じられた。
「シン?」
「なに」
「私も一緒に寝てもいい?」
「うん」
身体をシンの方に向ける。ジッと再びシンの顔を見つめて頬に唇を寄せた。
「なっ……」
驚いて見開いた目にごまかすように目を閉じた。
すると唇に柔らかい感触がして目を開いた。
「仕返し」
恥ずかしいけど嬉しくもあって目を閉じた。抱き寄せる腕に安心して身体を寄せた。
H23.12.26
【あなたとほのぼの5題・あなたとおひるね】
お題配布元:リコリスの花束を
あなたとおひるね
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