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ソファに並んで座り紅茶を飲む。
そろそろなくなりそうで隣に座るケントさんのカップを確認するとほとんどなかった。

「ケントさん、おかわり淹れてきましょうか?」
「いや、今はいい」
「そうですか……」

ケントさんの横顔がどこか神妙な面持ちで気になった。何かあったのか訊いても大丈夫だろうか。でも訊かないと言ってくれないかもしれないし。
考えた末訊こうと意を決してケントさんに顔を向けて息を吸った。

「にらめっこをしないか」
「え?」

口を開いた瞬間にケントさんがこちらを向いて真剣な顔で告げた。突然の提案に間の抜けた声が出てしまう。

「無理にとは言わない。忘れてくれ」
「いえ!やりますっ」
「いいのか?」

早口で顔を正面に戻してしまったケントさんを引き留めるように慌てて言うとケントさんがこちらを見た。

「はい」

理由はよくわからないけどケントさんの真剣な表情で言われた提案を断る理由もなく頷いた。
ケントさんが再びこちらを向く。少し安心したように微笑していて私も安心した。

「では始めよう。勝敗は互いの顔から目を逸らしたら負けだ」
「笑うのではなく逸らしたらですか?」
「逸らすということは耐えられないということだ。負けと見なして問題ないだろう」
「確かにそうかもしれませんけど……」
「何か問題が?」
「ないですね」

私の知っているにらめっことは少し違ったけど言われてみればそうかもしれない。
私が納得したのを確認してケントさんが開始を告げる。
とりあえず両頬を軽く引っ張ってみた。

「……」

ケントさんは何もせず表情も変えずに私を見つめる。
私は軽く首を傾げて引っ張った頬を上に下に引っ張ってみる。どうしたら笑わせられるんだろう?鼻を押し上げてみる?でもケントさんの前でそんなことはしたくない。
開始して私はなすすべがない事に気がついた。好きな人の前で変な顔はしたくない。だからといってそれではにらめっこにならない。

「ふっ……」

どうしようと困りひたすら頬を引っ張っているとケントさんが声を微かに漏らして顔を逸らした。

「そんな引っ張り続けたら跡になってしまうぞ」

顔を上げたケントさんは笑っていて両手でそっと頬を引っ張っる私の手に触れた。
驚きながら頬から手を離す。

「少し赤くなってしまってるな」

指先が触れて優しく撫でられる。気恥ずかしくなって視線を俯けた。

「あの、何でにらめっこをしたんですか?」
「……イッキュウに相談したんだ。私から何か話題は振れないだろうか、と」
「話題?」

疑問を口にしながら視線を上げるとケントさんと目が合い、今度はケントさんが逸らした。

「私から日常的な話題をあまり振れないからな。だが君と会話もしたい。だから相談したんだ」
「そしてにらめっこだったんですか?」
「私なら何をせずとも勝てるし君を見つめられると言われてな。結局負けてしまったが」

逸らされた視線が頬に向けられ再び撫でられる。

「そんなにおかしな顔でしたか?」
「逆だ。君が一生懸命で悩んでいるのがわかるのにそれが可愛らしかった」
「そ、そんな……」

はっきりと告げられ恥ずかしくなってしまう。ケントさんも自分の発言に気づいたのか気恥ずかしそうに視線を逸らす。
それでも離れない手が嬉しくて手を重ねた。

「にらめっこ楽しかったです」
「それは良かった」

ケントさんは苦笑混じりで告げ視線が合うと自然と笑みが零れた。


H24.9.22

【あなたとほのぼの5題・あなたとにらめっこ】
お題配布元:リコリスに花束を

あなたとにらめっこ
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