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トーマの事を男の人だと意識しだしたのはシンからトーマに彼女がいる事を教えてもらってからだった。

「ごめん」
「何でシンが謝るの?」
「泣きそうな顔してるから」

シンに指摘されて私は悲しいんだと気づいた。
トーマも男の人なんだ。彼女がいてもおかしくない。
私はトーマの幼なじみなんだから祝福しなきゃ。

「無理するな」

私の考えがわかっているかのような気遣いの言葉に俯いた。
私はどうしてこんなに悲しいんだろう?


どんな反応をしたらいいかわからなくて私はトーマを避けていた。
先に卒業したトーマを追いかけてトーマのいる高校を選んだ。周りには受かる確率が低くて止められたけどトーマは応援してくれて、最後まで諦めないでいれたのもトーマのおかげだった。
いつもそばにいてくれて、あたたかくて。一緒にいたかった。幼なじみで兄のようにではなく、もっと触れたい。触れてほしいと思うほどになってた。
私はトーマが好きなんだ。異性として。だから悲しかったんだ。


「おーい、大丈夫か?」

聞き慣れた声がして横に見るとトーマが心配そうに私を覗きこんでいた。

「えっ、トーマ……あっ」
「信号点滅してるから待って」

突然現れたトーマに驚いてよろけてしまうとトーマが腕を掴んで支えてくれた。
言われて信号待ちをしていて考えこんでしまっていた事に気づく。

「最近、って言っても二週間ぐらいか。会えてなかったけど大丈夫か?体調悪かったりしないか?」
「ううん、大丈夫」
「そっか」

トーマを見上げていられなくて俯く。
トーマとこの信号を待つのも久しぶり。中学の通学路で途中まで一緒に帰っていた。それを思い出してつい考えこんでしまって、トーマが好きなんだと気がついた。
会いたいのに会いたくない。なのにトーマは私の前に現れてしまった。どうしたらいいのかわからなくて今までどう話していたか思い出せない。

「青になったよ」

トーマに言われて顔を上げて歩き出す。当たり前だけど違う学校の制服を着ているトーマ。トーマも学校帰り?でもトーマの高校へはここは通らないはず。

「悪い、実は待ってた」
「そうなの?」

ちらりとトーマを見るとトーマは苦笑しながら言った。
私は顔に出やすいみたいでずっと一緒にいるトーマとシンには特にわかりやすいみたいだった。でも私には二人が何を考えているかがわからない。

「家にかけても早い時間なのに寝てるとか言われるしさ、さすがに数回それだと避けられてるのかなって。怒らせるような事したなら謝りたかったから」
「怒ってないよ」
「本当に?」

もうすぐで分かれ道にきてしまう。
避けてる事は事実。今ごまかす事はできても明日から今まで通りにできるんだろうか。

「……怒ってるよ。トーマが彼女いた事シンは知ってたのに私は教えてもらってなかったから」
「シンに聞いたのか?」

まだ分かれ道に来てないのにトーマの足が止まった。
私は一歩進んでしまって振り返るとトーマは珍しく動揺してるみたいだった。やっぱり幼なじみでも自分の恋愛関係とかには踏み込んでほしくないのかな。

「ごめん。シンにも教えたわけじゃないんだ。シンのやつ勘がよくてばれてさ」
「私達に隠してたの?」

こんな事言いたいわけじゃないのに、段々泣きそうになってきてごまかすように口が動いてしまう。

「……ごめん、知られたくなかったから」

限界だった。
私から目を逸らしてしまったトーマを見ていられなかった。
トーマに見つめられてる知らない彼女に嫉妬してしまいそう。
こんな状況になってこんな感情知りたくなかった。
私はトーマの幼なじみ。妹みたいなもの。私はもうトーマを兄みたいには思えないのに。

「あ、おい!」

走り出した私にトーマの声が追いかけてきた。
でもトーマは追いかけてこなかった。


そのあと家に帰り泣き続けているとシンから電話がかかってきて、トーマがおかしいからなんとかしろと言われた。
でも私は何もできなかった。
ひたすらこの感情を否定していく事、忘れていく事を続けた。
そうしないとトーマのそばにいられない。私はトーマのそばにいたい。


数日後、私はトーマに電話をかけた。

「トーマが離れてくみたいで寂しかったの。ごめんね」
「離れるわけないだろ。俺こそ黙っててごめん」

少しぎこちないけどこれでトーマのそばにいられる。
これでいいんだと言い聞かせた。


「またふられたんだ」
「シン、またって言うな」

トーマは彼女ができても長続きしなかった。休日もあまり彼女と出掛けてるそぶりもなく勉強以外では私達とこうしている事が多い。

「トーマ優しいしかっこいいのに何でだろう」
「お前……ありがとう」

トーマに頭を撫でられる。何度撫でられても心地よくて身を任せたくなる。

「一見人当たりよさそうだからタチ悪い」
「シンの言う通り俺は性格悪いからな」
「そうかな?」
「本当トーマの事となるとお前甘過ぎ」

ジッとトーマを見つめる。すぐに視線に気づいて笑いかけてくれる。
これは恋ではないと否定して、気づいた感情を忘れようとした。
そんな事できるわけがなくてただトーマのそばにいられるだけでいいと想いを隠した。
でもあれからトーマが彼女の事を好きなのかわからなくなる事があった。付き合っているはずなのに違和感。私がただそう思いたいだけかもしれない。一人の人とずっと付き合っていたら諦められたのかもしれない。
きっかけはシンに諦める必要があるのか聞かれたからだった。

「どうした?そんなに見られると恥ずかしいんだけど」
「いや?」
「その聞き方はちょっと、反則……いいよ、好きなだけ見て」

少し戸惑いながら笑ってまた私の頭を撫でてくれる。
諦めない。もう見ないふりなんてしない。
トーマが好き。告白するのはまだ先。今の私でトーマに告白はできない。
彼女になれなくてもいい。トーマがそばにいてくれて育った想いを、トーマのおかげで私はここにいるのと伝えたい。


H23.11.6

伝えたい
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