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「神宮寺、お前なら気になる相手はいるが違う人物から告白されたらどうする」
「それは断り方って事かい?」

夕飯時。そろそろ食堂へ行こうかと思っていたら聖川真斗が帰ってきた。
そして開口一番にこれだ。

「そうだ。今日授業で告白を断る演技があってな、断る台詞のみ各々考えるように言われたんだが月宮先生に注意されてしまった」
「とりあえず、オレは夕飯を食べたいんだ。歩きながら話さないか」
「そうだな」

ここで打ち切ってもよかったが聖川とこういった話をする事は嫌いではなかった。
オレは他人に意見を求めたりしないが聖川は参考に求める。たまに合同授業なんかあると指摘してきたりもする。
それが財閥の嫡男として成長する上で身につけざるを得なかったものなのか、聖川ゆえの性格なのかはわからない。

「ちなみにどんな台詞を考えたんだ?」

廊下へと出て扉を閉め会話を続ける。
ゆったりとした足どりで歩き出し聖川はその時の状況を思い出すように顔を少し俯かせた。

「気になる人がいるから付き合う事はできないと答えた」
「設定は?」
「アイドルだ」
「それはまた自分とかぶる設定だな」

聖川は顔を俯かせたまま思案しているようだった。
設定がアイドルならばその答えは間違いだと気付いてるはずだ。だが悩んでいる。

「どうしてそんな台詞が出たのかわからないのか」
「ああ、だから考えている。俺は断る台詞を考えて自然に出た。それは間違いだった」
「間違い、じゃないんじゃないか?」

強調するように言うと聖川は顔を上げてこちらを見た。
何故そう思うのかと言いたげな顔に笑ってしまう。だからはじめの質問に対する答えを言う事にした。

「オレなら好きな相手がいる。だから君とは付き合えないと言うね」
「だが設定はアイドルだ。アイドルに恋人がいてはいけない」
「わかってるよ。でも恋人じゃない。片思いだ。君がオレを好きなようにオレにも好きな人がいると告げるのは悪い事なのか?」
「俺の答えとは違うのか?」
「大違いさ。言ってる本人がわからない思いを相手にわかってもらおうなんてできるわけがない。なら今からでも私を知ってほしいなんて言われたら断れないだろう?」
「そうだな」

聖川は再び俯き加減になり考えこむ。
そうしている間に食堂に到着した。

「だが俺の思いはまだわからない」
「ならいいじゃないか」

食堂の入口で立ち止まった聖川を追い越して一歩食堂に足を踏み入れる。
振り返ると聖川が不思議そうにこちらを見ていた。

「オレの答えがそうなっただけで聖川は聖川なりの答えを出せばいい」
「そうだな」

聖川は少し吹っ切れたように笑むと食堂に足を踏み入れた。
何を迷っているだとか背を押したりはしない。オレ達はそういう関係ではない。
オレは聖川に負けるつもりもないし、聖川もそうだろう。
だがたまには互いの考えというものも聞いてみたくなる。オレにそのつもりはなくても自然とそんな流れになっている。
早乙女学園に入学する事は乗り気じゃなかったけど今では悪くないと思っている。

「それじゃあ聖川にはデザートを奢ってもらおうかな」
「仕方ないな、話を聞いてもらったしな」

そうしていつもの通りメニューを選び出したがデザートは食べた事がないものを選んでみようと思った。


H23.2.4

今では悪くない
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