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「わぁい、今日は翔ちゃんと料理なんて嬉しいなぁ」

調理室でオレは那月と共にエプロンをつけ材料を前に立っていた。
本当は音也とサッカーをやる約束をしていた。
だけど那月が

『じゃあ差し入れを持っていくね』

なんて言い出したからここにいる。
いつもは不意打ちで作ってくるから見張れないが今日は宣言を聞いたおかげで立ち会える。
そしてこの機会に那月の料理をまともな味にしよう作戦を決行する!

「どうしたの、翔ちゃん」
「いや、何でもない!で、那月」
「なに?」
「今日はサンドイッチを作るぞって言ったよな」

いきなり高度なものからいっては駄目だ。まずまともな味はどうしたら作れるのかを知ってもらわなくてはいけない。
だから味付けも難しくなく素材をさほどいじらなくても作れるサンドイッチにした。

「うん」
「見た事がない材料があるのは気のせいか」

しかもタッパーに入っているのにそこはかとなく嫌な予感を彷彿とさせる臭いを発している。
これは何だ!?本当にこの世に自然に存在してる食物なのか!?

「昨日僕が下ごしらえしておいたんだ。時間かかると思って」
「却下」

言いながらタッパーを目の前から遠ざける。できるだけ目の入らない場所に。
後ろから残念がる声がするが気にしてはいけない。

「よし、ゆで卵はもう用意してあるから那月は殻剥いてくれ」
「うん」

まともな味付けを覚えてもらうためにタマゴを担当してもらう。
その間にオレは横の流しで野菜を洗う事にした。

「ふふっ」
「何だよ、殻剥きそんなに楽しいか?」

殻を剥きながら笑い出す那月に野菜から視線を上げる。

「殻剥きももちろん楽しいけど誰かと一緒に料理するのが楽しくて」

本当に楽しそうに子供みたいに言うもんだから何だか照れくさくなって野菜に視線を戻した。
視線を外しても那月が楽しそうなのがわかる。

「家とかでもやってただろ」
「家だと僕が料理しだすと何故か止められるから。隠れてやるから一人なんだ。隠れて料理するのも楽しいけど」

家族もわかってたなら教えてやってくれと思ったが教えた上で無理だったのかもしれない。
そういえばレンも味覚が人よりずれている。でも料理はしないからいい。
那月の場合は料理をしたがるからそれなら人に合わせた料理にしなければ食べてもらえない。それは作ったものとしてやはり寂しいだろう。本人は美味しいと思ってるなら尚更だ。
食べてほしくて作るのに食べてもらえない、作るのを止められるのは寂しいんじゃないんだろうか。

「翔ちゃん?」
「那月、入れていいのは塩とマヨネーズだけだからな」
「え?でも」
「いいから!今日はオレ好みのサンドイッチを作ってくれ。一緒に作ってるんだからさ」

那月はきょとんとした顔をした。ちょっと押し付けすぎたか?でも人の好みを知れば多少は違うかもしれない。
オレだって那月の料理を食べたくないわけじゃない。でもできれば食べられるものがいい。

「そうだね!一緒に料理してるんだから翔ちゃんの好みも知れるよね!」

嬉しそうな笑顔を向けられて安堵した。
洗った野菜の水を切ってオレも笑顔を浮かべた。

「うまいサンドイッチ作って持ってこうな!」
「うん!」

那月とこうして料理を作るなんて早乙女学園入学前は考えられなかった。
入学して那月と友達になれてよかったと改めて思った。


H23.2.5

入学前は考えられなかった
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