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「明日の合同授業楽しみね」

明日の打ち合わせを済ませ、まとめたファイルを手に廊下を歩いていた。
少し後ろを歩くAクラスの担任の月宮林檎は言葉通り明日の合同授業を楽しみにしてるのだろう。表情からもそれが読み取れる。

「授業だって事を忘れるなよ」
「わかってるわよ」
「わかってないから言ってるんだ。お前はあのおっさんに似て突発的におかしな事しでかすからな」
「シャイニーには負けるわよぉ」

まるで冗談を言って軽く返してるようなノリだが俺は本気で言ってるんだがな。
確かに社長には負けるかもしれないが。

「あの子達のためにならないような事はしないから大丈夫よ」
「それはわかってる」

林檎も社長も生徒を思ってやってる事はわかる。わかるが後始末までしっかりやってほしい。

「龍也ももっとハジけたらいいのよっ」

片手で背中を押され勢いで数歩前へ押し出された。
見た目は可愛いアイドルだが腕力は男だ。

「俺までハジけたら誰が後始末を……」
「どこか扉が開いてるのかしら」

どこからかピアノの音色が聞こえ思わず言葉が途切れた。
林檎の言う通りすぐ先の教室のドアが僅かに開いていた。
ドアの前まで来て閉めようと取っ手に手をかける。
その間も響き続ける音色に閉じる事はできなかった。

「あら、弾いてるの龍也のクラスのハルちゃんじゃない?」

隙間から中を覗きこむ林檎と同じように覗きこんでみると七海がいた。
聞き覚えのない曲だった。出来上がったばかりなのかもしれない。

「はじめは引っ込み思案だったけど段々馴染めてきたみたいね。音にも現れてる」
「そうだな」

優しい音色を奏でる少女は楽しそうだった。七海はアイドルの曲を作るために入学したという。
大人しい少女なのに熱意は十分あって面白い人材だと思った。
クラスを受け持って数カ月。時に躓く事はあるが立ち止まりはしない。

「龍也」
「何だ」

林檎は俺のかわりにドアを閉めた。

「明日の合同授業の打ち合わせやり直しましょ」
「は?」

林檎が踵を返して来た廊下を歩いていく。
それを追い掛けるように駆け寄った。

「もっともっとあの子達には吸収していってもらわなきゃ」

林檎はやる気を見せるように拳を上げた。
七海の音に何か感じるものがあったのだろう。それは俺も同じだった。

「そうだな。一年はあっという間だ」

俺も林檎と同じように拳を握って軽く上げた。
その拳に林檎が拳を付き合わせた。


H23.2.6

拳を付き合わせた
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