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「あれ、トキヤ今日は早かったね」
寮の部屋に戻るとトキヤが真剣な表情をして机に向かっていた。
少しだけ返答を待ってみるけど全く反応がない。
聞こえてない?
「トキヤー?」
わざと小さめな声で呼び掛けてみる。気付かないなら驚かしてみようかな。
無意識に忍び足になりつつトキヤに歩み寄り背に回る。
何をしているのかと後ろから覗きこんでみると紙が机に置かれていてそれを見ているみたいだった。
「あ、それサイン実習のやつだよね?見せて、見せて!」
「っ……!?貴方は帰ってきたなら一言声を……これは駄目ですっ」
後ろから手を伸ばしたけど紙に届く寸前でトキヤが取り上げてしまった。
「なんで?俺も見せるよ。だからさ」
「駄目です」
言い終わらない内に拒否されてしまう。
それでもトキヤがどんなサインを考えたか知りたくて粘る。
「いいじゃん。参考にしたいし」
「参考になんてなりません」
「どうしたら見せてくれる?」
「どうやっても見せませ、あっ」
こちらに気をとられてる隙をついて紙を奪いとった。
立ってたら無理だったけどトキヤは座ってるから楽に取れた。
「音也、返しなさい!」
「待って、待って」
奪い返そうとしてくるトキヤに背を向けて距離をあけながら紙を見る。
そこにはいくつかのサインが書かれていた。採用となったサインには赤丸がつけられている。
トキヤらしいシンプルなサインだった。でもいくつか書かれてるサインの内の一つに目がいった。
「星だ!トキヤ、星つけてる!キラキラトキヤだ!」
「返しなさい!」
後ろから手が伸びて奪い返されてしまった。
トキヤのほうに向き直ると怒っているようだった。
「ごめん……」
「全く貴方はいつもいつも……いいです。でももうしないで下さい」
「うん。悪かったと思うけどやっぱりトキヤのサインは見れて嬉しかった」
「なっ……採用されたものならどちらにしてもあとで見れるでしょう」
「それでも見たいじゃん。キラキラトキヤも見れたし。やっぱりHAYATOと兄弟なんだな〜」
「……HAYATOとは違います」
「え?」
HAYATOとは違うのは当たり前だろと言いかけて言えなかった。
トキヤに目を逸らされたのもあるけど表情に違和感を感じたから。何だろう?何か辛そう?
「貴方も出しなさい」
「何を?」
手を出されてその手とトキヤの顔を交互に見る。もうトキヤはいつもと変わらない表情に戻っていた。
「貴方のサイン実習で使った紙です」
「あ、そっか。見せる見せる。音符をどうしても入れたくて色々考えたんだよね」
肩に提げっぱなしだった鞄をまさぐり少し皺になってしまった紙を取り出してトキヤに差し出した。
「音符とは貴方らしいですね」
「だろ?」
紙を受け取りながらトキヤは苦笑しながら言った。
H22.8.7
サイン実習のあと
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