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「はろうぃん?」
「うん、仮装したりお菓子貰いに行ったりするんだよ」
「菓子貰いに、って何か違くないか?」
「えー、でも俺が小さい頃近所の人にトリックオアトリート!って言ったらお菓子くれたよ?」
「とりっくおあとりーと?」
ハルカのところへ向かおうと寮を出ようとしたところでオトヤとショウに呼び止められた。
今日ははろうぃんという行事らしい。
「日本ではあまり通じなさそうだけどな……近所に頼んでたのか。まあそのあたりはいいや。セシル、帰宅する時にメールしろよ」
「わかりました。ハルカとこちらに向かう時にメールを送ります」
「あ、セシル。これあげる」
「何ですか?」
オトヤが握りしめていた布袋をワタシに差し出してきた。首を傾げると更に前に出される。
「お菓子ちょうだいって言われたらあげてね。でないと悪戯されちゃうよ」
「じゃあオレが試してみるな。トリックオアトリート」
「とり?」
「菓子か悪戯かってこと。菓子をあげれば悪戯を回避できる」
「なるほど、そういう行事なんですね。悪戯は困るのでお菓子をあげます」
「サンキュ」
布袋を受け取り中に手を入れ一つ取り出しショウに渡す。
これで悪戯を回避できたみたいだった。
「では行ってきます」
二人に見送られ寮を出た。すると見慣れた姿を見つけた。
「アイ先輩?」
「遅いよ。あ、遅くていいのか」
出てすぐにアイ先輩が佇んでいた。どうやらワタシに用があるようだった。
「トリックオアトリート」
「え?あ、はい」
「それで?」
「え?」
アイ先輩から言われるとは思わずに反応が遅れるも慌てて袋からお菓子を取り出す。でもショウのようにすぐに受け取ってはくれなかった。
「何の変哲もないお菓子で悪戯を免れると思ってるなら甘いね」
「ですがワタシはこれしか持っていません」
「なら僕を騙すと思って人が欲しがる特別なものだと演技してみせて」
「それは嘘になりませんか?」
「演技の練習だよ」
「練習……」
初めから嘘だとアイはわかっている。これは演技の練習。怪盗ニャニャーンをやった時のように……。
『まだ荒削りだけどなかなかよかったよ。お菓子は貰っておくね』
先輩に評価された言葉を思い出しながらワタシはハルカの元へ向かっていた。
演技をするのも楽しい。ワタシとは境遇も思考も違う人になるのは不思議な気分だった。歌はありのままのワタシを出し、演技は知らないワタシを知れる。
「トリックオアトリート」
「ん?」
声が聞こえ立ち止まり振り返るとレンとマサトがいた。
「お菓子持ってます」
袋からお菓子を取り出そうとするとレンの手に止められた。
「愛島から菓子を貰う前にやってもらわければならないことがある」
「何ですか?」
「切符を買うだけだよ」
「切符?ワタシはあいしーかーどというものを持っていますから切符は買わなくても電車に乗れます」
「まあ、はじめてのおつかいみたいなものだから」
よくわからないことを言われレンに背を押されすぐ近くにあった駅に向かった。
『切符と菓子、確かに受け取った。立派だぞ、愛島』
『気をつけてね、セッシー。刺客はまだいるから』
二人に見送られ再びワタシはハルカの元へ向かっていた。
二人共切符が欲しかったのだろうか。不慣れなもののハルカに教えて貰っていたため何とか切符を買えた。
「トリックオアトリートー!」
本日何度目かになる言葉が聞こえて声のする方に顔を向けるとレイジ先輩とランマル先輩が店の前に佇んでいて、レイジ先輩がワタシを手招きしていた。
「菓子を受け取る条件がある」
袋に手を入れる前に言われて首を傾げると指をさしそちらに顔を向けた。
「パンチングマシーン対決ー!勝てば僕らにお菓子を渡せて退散できるよ」
「その言い方だとオレらが悪霊か何かみたいだろ」
「そうか!せっかくハロウィンなんだから仮装してくればよかったね、ランラン!」
「そんなものただでやるわけがねぇだろ。というわけで菓子を貰うためにやるぞ」
「は、はいっ」
二人のやりとりを眺めていると自分に振られ、勝負をするという機械に向かった。
『強いね〜強いよ〜あ〜れ〜!』
『菓子握りしめながらだと様にも何にもなってねぇぞ、嶺二。ここは終わりだ、次に行け』
三本勝負で苦戦しながらも何とか勝利しハルカの元へ向かい続ける。
「何だかいつもよりも道程が長い気がしますが頑張ります」
「いい心掛けです。それでは頑張りを見せていただきましょう」
「トリックオアトリートだよ、セシルくん」
なぜ皆さん普通に来てくれないのか、また後ろから声がして振り返るとトキヤとナツキがいた。
「お菓子をあげます!」
止める隙を与えずにお菓子を握りしめ差し出すとナツキはすぐに受け取ってくれた。
「ありがとう!わぁ、ピヨちゃんが袋に印刷されてるチョコレートですね」
「すぐに受け取ってどうするんですか。愛島さん、私はあいにく普通の菓子はいりません」
アイ先輩の時のように演技をすればいいのだろうかと考え始めるとすぐにトキヤが言った。
「のど飴なら受け取ります」
「のど飴はお菓子なのかな?」
「四ノ宮さん!」
「困りました。袋には飴は入っていません」
先程中身を確認したけれどその中には飴は入っていなかった。このままでは悪戯をされてしまいます。
「ならば私と歌の勝負を」
「あっ!」
「どうしたの?あ、これのど飴だね。甘くて舐めやすいやつだよね」
「なっ……!」
のど飴が苦手だと以前ハルカに話したら舐めやすいものを探してくれた。ハルカ自身が試してくれて申し訳なくも嬉しかった。だからそれ以降その飴を持ち歩いていることが多い。
「これは、確かにのど飴ですね……」
「これで悪戯されないね、セシルくん」
「はい」
「……行ってしまいなさい」
トキヤはワタシからのど飴を受け取るとそう告げた。
どこか肩を落とすトキヤと手を振ってくれるナツキに見送られ、ワタシは歩を進めた。
ハルカのおかげで悪戯をされないですみハルカに感謝しながら向かった。
「もうすぐでゴールです。ですが嫌な予感がします」
今日はよく人に会う日だった。だけどそんな日にかぎってまだある人に会っていない。お菓子はまだある。たとえ甘党の人が相手だろうと大丈夫なはずだ。
「遅かったな、愛島」
「カミュ……」
案の定ハルカの住むマンションのエントランスにカミュがいた。
嫌な予感は当たり、甘党のカミュがワタシの前に現れた。
「わかっていると思うがトリックオアトリートだ」
「お菓子はあります」
袋からいくつか手に握りしめ差し出すとカミュは鼻で笑った。
「そんな量で俺が満足すると思っているのか」
「ですが……」
「後のことを考え余力を出す余裕など貴様にはないだろう!」
カミュの声のすぐあとに天井が崩れた。
ちょうどワタシとカミュを避けていたため二人共無事だった。
「ラスボスはミーデース!」
「予定より早いな」
天井の瓦礫から人影が見えたかと思えば社長が跳躍しワタシの前に降り立った。
「そういうわけだ。どううする、愛島」
「くっ……」
カミュの悪戯なんてそんな可愛いものじゃないに違いない。社長は想像がつかない。つかないだけに怖い。考えた末に袋を掲げた。
「カミュ!この袋のお菓子は全てあげます。ですから今からワタシと歌って下さい!」
「何だと?」
カミュに袋を差し出す。するとカミュはしばし黙って睨んできたけれど一瞬笑い袋を受け取り中から一つ菓子を取り出した。
「有り難く思え。俺が歌ってやるのだから」
「カミュはお菓子につられたのだからお菓子に感謝します」
「言っていろ、愚民が」
そう言いながらもワタシが歌い出すとカミュの歌声も重ねられた。
「お疲れ様です」
「おつかれさま?」
社長はワタシのカミュの歌声で倒れ、ワタシはハルカの元に辿り着いた。
ハルカの笑顔に安心するも言われた事に不思議に思う。
「セシルさんのお誕生日とハロウィンを兼ねた番組の収録だと伺って、部屋で待機と言われていたので」
ハルカの言葉で不思議な今日の出来事が繋がった。よく考えたら社長が歌声で倒れるのはおかしい。番組的に面白さをとったのかもしれない。
「お菓子たくさん作ったんです」
「それではハルカに悪戯できませんね」
「えっ?」
ハルカの頬を撫でると恥じらいながら目を逸らした。
「ワタシはお菓子がなくなってしまいました。ハルカ、言ってもらえますか?」
「でも……」
躊躇いがちに見上げられる。微笑むとハルカも笑んでくれた。
「トリックオアトリート、です」
「困りました。お菓子ないです」
「じゃあ悪戯しちゃいます」
一歩ハルカが近づき背伸びをし唇が頬に近づいてきて僅かに屈んだ。
「セシルさん、誕生日おめでとうございます」
触れる寸前に囁かれてくすぐったくも嬉しかった。
楽しい一日。最後は最愛の彼女と過ごすのは番組にはならない。ワタシ達だけのもの。
このあと彼女と戻ると誕生日会を開いてもらえて幸せな誕生日になった。
H24.10.31
ハロウィンと誕生日
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