novel top

受験生の冬休み。
周りは結構切羽詰まってたりするけど俺はそうでもなかった。でも最後まで気は抜かず勉強はしていくつもりだった。

時計を確認すると待ち合わせの時間。
年明け前に香穂子に告白した。受験生だからとか関係ない。むしろ言わないと集中できそうもなかった。
年が明けて数日。明日は新学期。

「……寒い」

これから待ち合わせ場所は屋内にしたほうがいいかもしれない。
駅前広場で待ち合わせは失敗した。
多少の遅刻は許容範囲でも寒さはどうしようもない。

「衛藤くんっ」

ぱたぱたと走る音と共に呼び掛ける声が聞こえて顔を上げると香穂子が駆け寄ってきた。

「寒い」
「待たせてごめんね」
「別にそんなに待ってないから」

待ち合わせ時間からは数分だろう。ここに来てからは十五分ぐらいか。別に怒ってはいないしそこで終わろうとした。

「っ…なに?」

なのにあまりにも凝視してくるから次の話題を出せなかった。

「鼻赤くなってる」

言われて触るが手も冷たくて冷たさの度合いがよくわからないが、どちらも冷たいからわからないんだろう。
そんな事を考えていると香穂子が鞄の中を探ってるのに気がついた。

「あとで渡そうと思ってたんだけど今着けても暖かいと思うから」

鞄から出された袋を差し出されて受けとる。香穂子に開けるよう言われて袋を開けた。

「手袋?」
「年明けに会った時に寒そうにしてたまにポケットに手を入れてたから」
「あぁ……」

年明けに一度だけ会った時か。年明けてから途端に寒くなって手袋買うかと考えていたところだった。

「ありがとう、香穂子」

お礼を言うと香穂子は頷いて微笑んだ。不思議と寒さが和らぐ。本当に不思議だ。

「香穂子手袋は?」

確か冬休みや年明けにつけていたのは見た。なのに寒いはずの今日はつけていない。

「急いでたら忘れちゃって……」

自分のドジが恥ずかしいのか視線を外して少し俯きながら言う。そんなところも可愛いと思う。

「じゃあどこか入るか」
「うん。衛藤くん?」

手袋を袋に入れ直す俺に香穂子は首を傾げる。
その袋を上着のポケットに入れてから香穂子に手を差し出した。

「手」

初めてではないけどまだ慣れない事は照れる。
香穂子は少しだけ手を見つめて意味がわかったのか笑顔で手を重ねてきた。
繋ぐ手は少し暖かかった。

「あ、繋いでからじゃ遅いけど俺手冷たいよな?」

暖かい手が冷えてしまうと離そうとして繋ぐ手が引き留めた。

「走ってきて暖まってるから大丈夫!待たせたのは私だし暖めさせて」

予想外の言葉に照れて顔を背けた。暖めてもらうなんて普通彼氏のほうがするんじゃないかと思うけど嬉しくもあって手は離せなかった。

「反則だろ……」
「反則?」

香穂子が聞き返してきても答えてなんてやらない。答えられるわけがない。
好きになった方が負けなんて言葉がよぎる。負けるなんて絶対嫌だったのにいいかなんて思える。
それ以上に満たされる思いがあるのだから。



H24.1.16

それ以上に満たされる
prevUnext