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半日で授業が終わり放課後。昼食を食べる約束をしている香穂子を待っていると和樹さんが学院に来ていた。

「暑い……」
「夏だね〜」

バスケに誘われ香穂子が来るまでならと始めたら長くなってしまった。
キリのいいところでやめて水道場で顔を洗っていた。
和樹さんが当たり前の事を言い、水道の蛇口を上向けて髪を濡らしていた。
暑いのは嫌いじゃないけど日本の夏は湿気が多くて不快指数が増す。暑いなら暑いでもっとからっと暑くならないものか。

「……ホース借りてこようかな」
「ホース?」

呟くと和樹さんが頭を上げる。すっかり水浸しになった髪。用意していたタオルで軽く拭くと前髪を掻き分けてポケットにでも入れてたのか手際よく黒いピンで留めていた。

「ホースで身体にかけようかと思ってさ」

さすがにそれは無謀かと思ってやめておく。着替えは持ってはいるけど。

「そんなことも言ってられないし、我慢して」

仕方ないから持ってきてるタオルでも濡らそうと言いながら動こうとすると和樹さんに遮られた。

「ならかけてあげるよ」
「は?ちょっと!」

和樹さんが悪気なく言い放ちながら親指で吐水口を押さえたのを見て反射的に身体が避けていた。
案の定勢い良く出る水が身体を横切る。

「きゃっ……」
「え?」
「日野ちゃん!?」

和樹さんの声と同時に振り返るとそこには香穂子がいた。


「衛藤くん、お待たせ」

空き教室で待っていると香穂子が戻ってきた。
香穂子の上半身に思い切り水がかかり、着替えるようにいった。

『すぐに乾くよ。暑いからちょうどいいし』
『いいから!着替えが持ってないなら俺のTシャツ貸すから』

そう言って半ば強制的にTシャツを押し付け着替えに向かわせた。
不思議そうにしていたけど理由は教えてやらない。白い制服だから微妙に透けていたなんて言えるわけがない。

「少し大きいか。でも半袖だし問題ないよな」

近寄ってくる香穂子を見ながら言うと香穂子はTシャツの裾を掴んだ。

「着てびっくりしちゃった。丈もこんな長いなんて思わなかった」
「男物の普通サイズなんてそんなものだろ」
「そうなんだ。見てるだけだとわからないけど着てみると衛藤くんって大きいんだって実感した」

改めてそんなことを言われると気恥ずかしくて香穂子から視線を逸らした。
俺が着ると普通のTシャツも香穂子が着ると大きく見えて、香穂子のほうが小柄なんだと実感してしまう。

「あれ、飲み物買ってきてくれたの?」

向かいに座りながら机にあるペットボトル二本を指差した。

「和樹さんが買ってきた。お詫びだって。本当ごめんって言ってた」
「かえって悪いことしちゃったね」
「人の話聞かずにああなったんだしいいんじゃない?」
「でも……」

気にする香穂子にペットボトルの蓋を開けて差し出す。
こちらが気にしていたほうが和樹さんのことだから気にし続ける。悪気はないとわかっていても人の話は最後まで聞いてほしい。
だから受け取った。

「受け取らないと和樹さん謝り続けるだろうしもらっておきなよ」
「うん」

香穂子もわかったのかペットボトルを手にした。

「それにそもそも俺が香穂子を巻き込んだようなもんだよな」
「巻き込まれて楽しかったよ」
「それならいいけど……」

言いながらペットボトルを口にした。香穂子には紅茶、俺には炭酸を買ってきた。口に含むと少し暑さが和らぐ気がした。

「練習終わったらかき氷でも食べに行こう」
「昼食べる前からそんな話するのかよ」
「だめ?」

窓に目を向けると陽射しを見るだけであの暑さが蘇る。まだ屋内のほうがマシだった。

「だめなわけないだろ」
「うん」

香穂子が嬉しそうに頷いて弁当箱を開けだす。きっと今から食べる弁当、練習、そしてそのあとのかき氷を楽しみにしてるんだろう。
日本の夏は好きとはいえないけど、今日はあまり見れない香穂子の姿も見れたし、これからかき氷も食べに行く。だからこの暑さも悪くないと思えた。



H24.8.16

夏と水
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