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『火原先輩、もうすぐ誕生日ですよね?』
『あっ、プレゼントとかはいいよ!?』

何言ってるんだろう。
これじゃあ欲しいって思われるよね。
誕生日を知っててくれただけで嬉しかった。
正直プレゼントも欲しい。
でも欲しくない。


「は……駄目だ」

帰り道。
ため息が漏れそうになって飲み込む。
幸せが逃げちゃうっていうのもあるけど、落ち込んでいるというのを自覚してしまう。
こういう時はトランペットを吹いて楽しい気持ちになるとそんなの吹き飛ぶのに。
今はトランペットを手にする気持ちになれない。
こんなの初めてだ。

「空……」

上を見上げて空に向かってため息を押しつけちゃえばいいかなとか考える。
これだけ広いんだから俺のため息なんて小さいものだ。

「わっ」

突然体に何かがぶつかった衝撃。
視線を空から戻すと見知った女の子がいた。

「す、すみませんっ。火原先輩」
「冬海ちゃんか〜俺は大丈夫だけど、冬海ちゃんは大丈夫?」

冬海ちゃんは俯いたまま頷く。

「あの、火原先輩」
「何?」

冬海ちゃんから話しかけて来る事は珍しい。最近は以前より話すようになった気がするのは日野ちゃんがいるからなのかな。

「先輩が困っていました」

冬海ちゃんは一年生だ。“先輩”はたくさんいる。
でもすぐに誰を指しているのかがわかった。
きっと冬海ちゃんは俺を探してた。俯いた顔をあげて、この事を俺に言うために。
冬海ちゃんがそこまでする“先輩”といったらただ一人しかいない。

「どうして……いらないだなんて言うんですか」

視線を下に向け悲しそうに見える。これは俺のした事を言ってるのか、それとも。

「それは俺なんかより冬海ちゃんの方がわかってるんじゃない?」

思い過ごしかもしれない。冬海ちゃんが自分と俺を重ねてるなんて。
彼女を悲しませたなんて。
知ってる。
彼女がみんなの誕生日を知っていて、近くになるとさりげなく欲しい物を聞いている事を。
優しいから。仲良くなりたいとともに感謝の気持ちをこめてプレゼントしたいんだって。
知ってるんだ。
だから欲しくない。
“同じ”じゃ嫌だ
どうしてこんな事を思ってしまうんだろう。
寒い季節に反して体は熱くなるばかり。
わからない事が脳内を巡って吐きだされず熱になって溜まってく。
ため息はもしかしたらこの熱の煙なのかもしれない。
吐きだされずに溜まって余計熱をあげていく気がした。


「火原先輩!!」

誕生日当日。
数日しか経ってないのに凄く久しぶりに思える彼女。
屋上でトランペットを手にしている俺。
でも吹けないでいる。

「どうしたの?あ、練習?」

いつも通りに接するが彼女は怒っているような表情で近付いて来る。

「火原先輩、私に言いたい事ありませんか」

疑問形というよりは言ってくれと言われている気がする。
何を?嫌われるような事を?
ならせめて……。

「誕生日プレゼント、欲しいんだ」

みんなと同じでもいい。君との思い出になれば。
この熱が引くことはないけれど。

「そんな火原先輩にはあげません」

一度はいらないと言ったのだからこう言われても仕方がない。
でも意外だった。彼女ならくれるんじゃないかと思ってたから。
やっぱり嫌われちゃったのかな。

「だから……」
「え?」

彼女は持っていたバイオリンケースを置き、バイオリンを出した。

「火原先輩」
「うんっ」

演奏の体勢に入り、視線があうと俺は頷きトランペットを吹き始めた。
久しぶりのこの感覚。彼女のバイオリンの音色に包まれながら、トランペットから音を響かせていく。
次第に熱が引いていくのがわかった。煙のようなため息がトランペットを通して空に向かっているような、そんな感覚。
しばらくそうしてトランペットから口を離すと体は熱くても、冷たい風で身体は冷えた。

「火原先輩、お誕生日おめでとうございます」
「うん、ありがとう」

彼女は俺の欲しい物がわからなかったから必死に考えたと帽子をくれた。
その言葉も帽子も嬉しくて笑ったら、彼女は少し顔を赤らめて笑ってくれた。
それも凄く嬉しかった。

新たな熱は引いてくれそうにない
それは全て君のせい
不明な熱を引かせるのも与えるのも君
わからないと
悩むけど
知らないと
目を背けたくなるけど
それが恋なんだと
わかるのは
もう少し先
今は君の隣で笑って
日々を重ねていく



H17.12.13

不明な熱は君のせい
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