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合否を確認に学院を訪れた。
確認したあとに香穂子と会うはずが肝心の香穂子に連絡がとれなかった。
仕方なく学院内を探す事にした。
「まさか練習室って事はないだろうしな」
あいつなら有り得そうだ。
音楽科から普通科に行こうとしたけど、学院の生徒は今日は休みみたいだし教室にいるぐらいなら練習してるだろうと練習室に向かう事にした。
「あ、あのっ」
「え?」
練習室の通路に入ると控えめに声をかけられた。振り返ると音楽科の女生徒がいた。
「なに?」
「その制服……受験生ですよね?」
「そうだけど?」
「ま、迷われたんですか?」
「は?」
俺の返答にびくっと少し怖がるような態度を見せた。
そんな怯えなくてもいいのに。そんなんで奏でたら音も控えめになりそうだ。
「あれ、冬海さん?」
「かっ、加地先輩……」
練習室から出てきた普通科の男子生徒が女生徒に気付き声をかけた。
声でわかったのはやはり怯えたまま振り返る。
「葵さん」
「衛藤くん?」
その男子生徒は顔見知りだった。俺に気がつくと少し驚いたように目を見開くけど、すぐにここに俺がいる理由に思いあたったのか微笑んだ。
「この学院を受けたんだね」
「そういうこと」
「加地先輩のお知り合いですか?」
「うん」
その答えに女生徒は安心したのかホッと息を吐いた。
「合格おめでとう」
「まだ合否言ってないんだけど」
「君なら受かるはずだからね」
「まあ受かったけど」
「あ、おめでとうございます!」
葵さんに冬海と呼ばれた生徒がお辞儀して祝いの言葉を言った。それにどうもと返す。
「それでどうしてこんなところにいたの?合否を聞いたならもう用事はないよね」
「人と待ち合わせをしてるんで」
「そうだったんですか。てっきり迷ってしまったのかと……すみません」
「いや、別に謝らなくていいし」
親切で声をかけてくれたのだろうしそんな申し訳ない態度をされても困る。
「練習室で待ち合わせ?」
「待ち合わせ場所は決めてなくて携帯にかけてるんだけど連絡もつかないし」
「そっか。休みだから教室にいる可能性も低そうだね。放送してもらう?」
「そこまでは……」
さすがに香穂子も怒るだろう。
もう一度掛けてみようと携帯を取り出して香穂子の携帯に掛けてみる。
「あっ」
「え?」
バイブ音が鳴り出して少しあとに女生徒の声がした。
女生徒の視線は葵さんの手の中にある携帯。俺がかけだしたすぐあとにバイブ音が鳴り響いたから反応したんだろう。
「もしかして衛藤くんの待ち合わせの相手って日野さん?」
「そうだけど……何で香穂子の携帯を葵さんが持ってるの?」
「「っ!?」」
二人が異常なまでに同時に反応した。
女生徒の方は顔が少し赤い気さえする。
「なに?」
「日野さんの事……」
「よ、呼び捨て……」
何で驚かれてるかはすぐにわかった。まあ年下だしね。基本年上にはさん付けなわけだし。
「で、何で携帯持ってるんですか?」
「流していいところじゃないよ」
「は、はい」
引っ張っても仕方ない話題だと思って流したのに。こういう時だけ女生徒は怯えたそぶりがないし。
「本人には了解得てるし今更さん付けとか気味悪がられそう」
先輩呼びはたまにするし学院に通いはじめたら人前では先輩と呼ぶつもりではある。
だけど二人が聞きたかったのはそういう事ではなかったみたいだった。
「日野さんから衛藤くんに会ったとは聞いていたけどそんな呼び捨てにする関係だなんて」
「どなたかは存じませんが香穂先輩を呼び捨てにするのは……」
香穂子には会えない、面倒な二人には捕まる。通う前からこれだと先が思いやられる。
「別に付き合ったりとかはしてないよ」
「「え?」」
そんな嘘言ったみたいな反応されても。
確かに香穂子の事は好きだ。でも思いはまだ伝えていない。
「呼び捨てなのに?」
「付き合ってないからって呼び捨てにしちゃいけないなんて決まりはないですよ」
「あ、加地先輩、携帯が鳴ってます」
「え?本当だ」
葵さんの持つ香穂子の携帯が再び鳴っていた。
今度は俺は掛けていないから別の奴か本人だ。
「もしもし?あ、日野さん?そう、練習室に置いていってたから届けようと思って」
葵さんが出て相手の名前と会話が始まると葵さんから携帯を奪いとった。
「もしもし?今どこ」
音楽科の職員室にいるとだけ聞いてすぐに電話を切った。
「何で香穂子が練習してた練習室にいたんだか」
「在室表を見たからだよ」
「私も在室表を見て来たんですけどもういらっしゃらなくて」
数分しか話していないけどこの二人がライバルなんだという事はわかった。
「衛藤くん、学院に入ったら大変だよ。彼女は人気者だからね」
「……せ、先輩と呼んだほうがいいと思います」
音楽以外で勝ちたいと思うのは初めてだった。
「俺だって負けるつもりはないよ」
彼女の音に惹かれた者達がきっとまだいる。
だって俺が惹かれたくらいなのだから。
H21.8.17
俺が惹かれたくらいなのだから
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