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天音学園の室内学部部室。
俺の音が聞きたいと言い出した小日向を連れて来た。

「そういえば」

背後にいた小日向が呟く。
顔だけ向けるとじっと俺の背中を見つめていた。

「何だ」
「天音学園って長袖しかありませんよね」
「必要ないからな」

納得したようで納得してない様子で上げた顔を再び俺の背に向ける。
小日向に振り返り身体を向けると再び顔を上げた。

「制服がどうしたというんだ」
「いえ、冥加さんは特注で長い学ランなんですよね?」
「だから何だ」
「中が気になって」

またじっと今度は胸を見る。見ても何も変わらんだろうと言ってもやめそうにない。
それにこの状況に段々と堪えられなくなってきていた。

「用件が済んだのなら行くぞ」

ヴァイオリンを戻し、蓋を閉める。元々部の物を使用したためそのままケースは置いて行こうとする。

「えっ、あ!待って下さい」

小日向を横切り扉に向かい、扉に手をかける手前で制止した。

「……何のつもりだ」
「あの……止めようと思って」

腰にがっしりとしがみついた小日向がおずおずと言う。その言い方とは反対にしがみついた腕はしっかりしていた。

「お前は何がしたいんだ」

扉を開けようとした手を降ろし問い掛けるように呟く。
俺にはこの腕を振りほどく事は到底できなかった。
かといって小日向がどうしたいのかもわからず立ち尽くししかない。

「怒りませんか?」
「言う前に聞かれても答えられるわけがないだろう」
「そうですよね……」

諦めかけたように腕が少し緩められるがすぐにぎゅっとまたしがみついてくる。

「学ランの前を開けて下さい」
「前を?」
「はい」

何の意味があるかわからないが学ランの前を開けていく。途中小日向が腕を緩めて全ての開ける。

「開けたぞ」
「ありがとうございます。そしてごめんなさい!」
「っ……!?」

襟首を強く引かれて下へと力が強くかかる。かろうじて倒れはしなかった。
だが学ランが何故か脱げかけていた。

「何をしている!」
「あはは……中どうなってるのかなって」

小日向は笑いながら俺の学ランの襟を掴んでいた。

「よかった、うまく学ランだけ引っ張れて」
「何がいいんだ。男の服など脱がせて何が楽しい」

口にしてから変な状況だと改めて思う。言葉にすると余計に変だ。

「中は規定の黒いシャツなんですね。すっきりしました」
「だから何なんだ……」

まだ襟から手を離さない小日向。怒っているというよりは呆れている。女が男を服を脱がせるなど何を考えているんだ。

「他の奴にはやるんじゃない」
「はい」

いやに素直に返事をする小日向に少し拍子抜けしてしまう。
何も言えずにいると小日向は少し首を傾げ俺を見つめた。
何か思いあたったのか首を戻すと笑う。

「冥加さんにしかしませんから大丈夫です」
「なっ……そういうことではない!」

そう言った瞬間目の前の扉が開いた。反射的にそちらに顔を向けると見知った部員がいた。

「す、すみません!」

目が合った瞬間に思いきり扉が閉められ唖然とする。
誤解をされたのが一目瞭然だった。

「やっぱり誤解されちゃったでしょうか?」

小日向も今の光景に呆然としながら呟く。
わかっていながらやはり襟からは手を離していないのは何故だ。
これからはもし小日向がいる時は鍵をかけておこうという考えが過ぎった。
その考えに笑ってしまう。

「冥加さん?」
「まったくお前は……」

全てが予想外だ。
たった数分後さえ予想がつかず、俺を崩してしまう。
だがそれも悪くない。

「本当にわからないな」
「あっ……」
「何だ?」
「いえ、その……笑ってくれて嬉しくて」

何も言えなかった。
そんなに笑うな。
お前のその笑顔が俺が与えたものなのかと思うと余計直視できなくなってしまう。

予想外の先は更に予想などできるはずがない。



H22.4.27

予想外の先
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