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理事長室に戻ると誰もいないはずの室内に見覚えのある少女がいた。

「冥加さん」
「……小日向、何故お前がここにいる」

ソファに座っていた小日向が立ち上がる。

「アイスをたくさん貰ったのでおすそ分けに来ました」

言いながらアイスが入っているだろうクーラーボックスを持ち上げる。
小日向に歩み寄りクーラーボックスを支えるように持つ。

「持ち上げなくていい、置け」
「はい」

再びクーラーボックスをテーブルに置くと小日向は蓋を開けだした。

「何をしている」
「おすそ分けです。冥加さんに食べてもらおうと思って……あ、部員のかたの分は天宮さんが持っていってくれました」

何となくわかってはいたが小日向をここへ通したのは天宮の仕業だと確信した。
クーラーボックスの蓋を開け、中からカップを取り出してくる。

「はい、どうぞ」

プラスチックのスプーンと共に差し出されるが受け取らずに普段使用している机へ向かう。

「冥加さん、溶けちゃいます!」
「貴様が食べればいいだろう」

椅子に腰掛けると素早いことに小日向が目の前に立っていた。

「大丈夫です。そんなに甘くないものを持ってきましたから」
「甘かろうが甘くなかろうが食べるつもりはない」

机を挟んで睨みあうような形になるがやがて小日向が視線をカップへと逸らせた。
じっと見つめスプーンでカップの掬いとる。薄い黄緑色をしたものを乗せ、それは小日向の口の中へとおさまった。

「食べたくなりましたか?」
「なるわけがない」

真剣な顔で聞かれるが食べたくなるわけがない。
返答を聞いて再びカップへと視線を戻す。何か言っているようだがよく聞き取れない。
少ししてまたスプーンでカップの中身を掬いとると今度はこちらに差し出してきた。

「冥加さん、あ〜んしてください」

目の前と光景と発言に何も返す事ができなかった。
一体何と言ったらいいのかも思い浮かばず、どんな表情をしているのかもわからなかった。

「美味しいと……思います」
「何だその自信のなさは」

先程とは違い自信のなくなった小日向にやっと言葉が出た。
小日向は首を振り自信のなさを振り払い何も言わずにスプーンを差し出してくる。
あまりにも真剣な表情で口元にまで寄せられたスプーンに促されるように口を開けていた。
冷たさと何か果実の味が広がりすぐに消えた。

「美味しいですか?」
「……あぁ」

そう答えると満面の笑顔になった。どうしてただ一言答えただけでこんな笑顔を見せるのかがわからない。

「よかったです。冥加さんの好きな味やどのぐらいの甘さまでなら平気か知りたくて」
「知ってどうする」
「知りたいだけです」

それは答えになってないだろうと言いたかったが言わずにおく。

「あっ……」
「どうした」

スプーンを見つめて少し驚いたような声を出す。
そしてスプーンと俺とを交互に見だす。

「かっ……」
「何だ」
「何でもないです!溶けちゃいますから早く食べましょう!」

カップとスプーンを押し付けられつい受け取ってしまう。
小日向はクーラーボックスに駆け寄りまたカップとスプーンを取り出していた。
ふと小日向が先に食べていた事を思い出し、同じスプーンを使った事に気がついた。
さして気にする事ではない。

「冥加さん、溶けちゃいますよ」

何度聞いたかわからない言葉を聞きながらスプーンを見つめていた。



H22.8.5

スプーンを見つめていた
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